「もう限界...」周囲が介護者の精神的負担に気づくために/介護破産(12)

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介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。実は介護破産の原因には、単に資産の多寡だけでなく、介護に関する「情報量」も大きく関わってくるのです。
本書「介護破産」で、介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法を学んでいきましょう。

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どうすれば介護者の限界に気づけるか

近所の人が家族のSOSをキャッチして救われたケースもある。

一人暮らしのキヨさん(仮名、78歳)は、認知症の周辺症状が出はじめ、中度となった今日(こんにち)でも、介護サービスを利用して平穏な生活を送っている。少し前までは、家事支援のため自宅に訪れたヘルパーに対して「物を盗られた」といい、人を部屋のなかに入れるのを嫌がった。使用済みのおむつやシャンプーなどの日用品をタンスのなかにしまい込んでいるので、腐敗臭が漂う〝汚部屋″のなかで暮らしていたという。

ある日、お湯をわかそうとしてガスコンロの火をつけたことを忘れてボヤ騒ぎになったこともあった。訪問介護が受けられないため、近くに住む長女(51歳)が子育てのいっぽうで、買い物、掃除、洗濯など身の回りの世話を一切担ってきたが、母は身近な人に対して罵詈雑言を浴びせていたので、長女の疲労はピークに達していた。長女の様子にみかねた近所の人が勧めた介護サービスが「小規模多機能型居宅介護」だった。

小規模多機能型居宅介護とは、デイサービスを中心にホームヘルプ、ショートステイを組み合わせて利用者の状態に応じたケアプランを立てる。最大のメリットは要支援の人でも、必要と判断されれば週5回程度、デイサービスに通うことも可能になる。デメリットは2006年からはじまったサービスなので事業所が少ないこと、ショートステイを利用した際の宿泊代や食費など実費の部分が高くなることなどが挙げられる。

キヨさんは週5回デイサービスに通うプランを立てている。朝、職員が迎えに来て、その日の気分で「行きたくない」といったら、ホームヘルプに切り替える。生活のリズムができ、少しずつ穏やかになってきたという。長女がいう。「もともと人の世話をするのが好きで、施設にも『ボランティアをしにいこうよ』『みんなが待っているよ』といって誘い出すんです。母は『私がいかないとみんなが大変な思いをするから』といい、出かけるのが楽しみになりました」

デイサービスをのぞいてみると仕切り役になってお昼の支度や片付けをするキヨさんの姿があった。

 

周囲が介護者の精神的な限界にいち早く気づくためにはどうしたらいいのか。

家族介護者を支援する「日本ケアラー連盟」(東京都新宿区)は、2015年6月、同連盟が開催したフォーラムで「介護者支援の推進に関する法律案」の改定案(ケアラー支援推進法案)を発表した。法律案には、介護者の状況を把握し、適切な支援を実現するために「ケアラーアセスメント」を実施するなどの内容が盛り込まれた。

いち早く取り組んでいる自治体もある。北海道栗山町の社会福祉協議会では2014年、職員らが介護者に聞き取りをして、サポートするほかの家族の存在や地域の協力体制、体調などを数値化して把握する「ケアラーアセスメント」をはじめた。介護者の負担感を総合的に5段階で評価し、支援者側が情報を共有する仕組み。ただし、こうした取り組みに「おせっかい」と感じる家族もまだ多く、全国的に広がるかどうかは不透明だ。

介護にまつわる悲劇を防ぐためには、適切なケアの提供だけでなく、医療費の工面や生活保護の申請など、金銭の手当てが課題の解決につながることが多いという。そのいっぽうで個人情報やプライバシーは他人に知られたくないと、情報提供をためらう介護者もいる。介護者のSOSを察知して、どう支援するのか。地域ぐるみの取り組みが重要になってくる。

 

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結城 康博(ゆうき・やすひろ)
淑徳大学総合福祉学部教授。1969年生まれ。社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー。地域包括支援センターおよび民間居宅介護支援事業所への勤務経験がある。おもな著書に『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から 』(岩波新書)、『孤独死のリアル』(講談社現代新書)、『介護入門 親の老後にいくらかかるか? 』(ちくま新書)など。

村田くみ(むらた・くみ)
ジャーナリスト。1969年生まれ。会社員を経て1995年毎日新聞社入社。「サンデー毎日」編集部所属。2011年よりフリーに。2016年1月一般社団法人介護離職防止対策促進機構(KABS)のアドバイザーに就任。おもな著書に『書き込み式! 親の入院・介護・亡くなった時に備えておく情報ノート』(翔泳社)、『おひとりさま介護』(河出書房新社)など。

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『介護破産』
(結城 康博、村田 くみ/ KADOKAWA)

長寿は「悪夢」なのか!? 介護によって始まる老後貧困の衝撃!
介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。本書では現在介護生活を送っている人々の生の声をルポしつつ、介護をするにあたり知っておきたいお金のこと、法律面のことなどに言及。介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法論を記した一冊です。

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