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介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。実は介護破産の原因には、単に資産の多寡だけでなく、介護に関する「情報量」も大きく関わってくるのです。
本書「介護破産」で、介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法を学んでいきましょう。
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前の記事「生活保護を受けていれば認知症になっても福祉につながる/介護破産(6)」はこちら。
膨らみ続ける社会保障費
ここで、社会保障費全体についておさらいしてみよう。
団塊世代全員が75歳以上の後期高齢者になる2025年以降には2200万人、5人に1人が75歳以上という超高齢社会が到来する。医療や介護、福祉サービスへの需要が高まり、社会保障費は2025年度には148.9兆円まで膨れ上がるという(財務省試算)。
社会保障と財政のバランスが崩れると指摘されるのが「2025年問題」。それまでに国は、基礎的財政収支(プライマリーバランス、以下、PB)を2020年度には黒字化させたい、借金依存の体質を改めたいという目標を掲げた。その赤字削減の〝やり玉″に挙がったのが社会保障費だ。PBとは、借入金を除く税収などの歳入と、過去の借り入れに対する元利払いなどを除いた歳出との「差」のこと。日本は長引く景気低迷で、長年にわたり税収が伸びなかった。日本の国家予算、約96兆円のうち、税収などでまかなっているのは6割程度。約4割は国債を投資家に買ってもらうなどの借金に頼り、2015年度のPBは16.4兆円の赤字だった。
少子高齢化に歯止めがかからないまま、赤字は雪だるま式に増え続け、国債や借入金などを合わせた「国の借金」の残高は、2015年3月末の時点で1053兆3572億円。この数字は、同年6月、財政破綻に陥ったギリシャを抜いて断トツだ。日本はいまや世界一の借金大国になってしまった。
そこで国は、経済成長だけではPB黒字化のメドが立たないと判断して〝歳出カット″に乗り出した。第1弾は2015年8月からの介護保険制度の改正。第1号被保険者(65歳以上)のうち、収入から控除などを引いた合計所得が単身世帯280万円、二人以上の世帯346万円以上の場合、利用したサービスの自己負担は原則2割になった(図1 -2)。
今後は所得のある高齢者の負担を増やそうというのだ。さらに、預貯金を含めた金融資産が単身で1000万円以上、別々に暮らしていても夫婦で2000万円以上持っていると、「減免措置」の対象から外れる。たとえば、特別養護老人ホーム(特養)のユニット型個室に入所した場合、1日あたりの食費は1380円、光熱費などの居住費1970円は自己負担となっているが、住民税非課税世帯は所得に応じて、食費300~650円、居住費は820~1310円と安く済むように設定されている。そこで、妻が特養に入所しているケースでは、年金収入がある夫と世帯分離をして住民票を特養に移すと、妻の年金収入で入所費用が計算される。住民税非課税世帯になるので、介護の費用が少なく済む、というわけだ。
ところが、新しい制度のもとでは、住民票を特養に移していても、夫の年金収入と合算して入所費用が計算されるので、思わぬ負担増に陥る人が相次いだ。
次の記事「介護費用が上がると家族の負担が増える/介護破産(8)」はこちら。
淑徳大学総合福祉学部教授。1969年生まれ。社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー。地域包括支援センターおよび民間居宅介護支援事業所への勤務経験がある。おもな著書に『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から 』(岩波新書)、『孤独死のリアル』(講談社現代新書)、『介護入門 親の老後にいくらかかるか? 』(ちくま新書)など。
村田くみ(むらた・くみ)
ジャーナリスト。1969年生まれ。会社員を経て1995年毎日新聞社入社。「サンデー毎日」編集部所属。2011年よりフリーに。2016年1月一般社団法人介護離職防止対策促進機構(KABS)のアドバイザーに就任。おもな著書に『書き込み式! 親の入院・介護・亡くなった時に備えておく情報ノート』(翔泳社)、『おひとりさま介護』(河出書房新社)など。
(結城 康博、村田 くみ/ KADOKAWA)
長寿は「悪夢」なのか!? 介護によって始まる老後貧困の衝撃!
介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。本書では現在介護生活を送っている人々の生の声をルポしつつ、介護をするにあたり知っておきたいお金のこと、法律面のことなどに言及。介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法論を記した一冊です。