「40代の女性です。小学生の頃、よく祖父が自宅でお灸をするときにお手伝いをしていました。寡黙で無口な祖父でしたが、いま思えば愛情を持って接してくれていたなと、お灸の独特の香りと一緒に懐かしく思い出します」
アラフォー、アラフィフ世代の女性を中心に、実体験エピソードを寄せてもらいました。年齢を重ねると健康や人間関係、お金などさまざまな問題が発生しますが...。あなたならこんな時、どうしますか?
■祖父とお灸と、そっけないけど暖かい部屋
小学生の頃、私は自宅から近い母の実家へよく遊びに行っていました。
祖母は私が生まれる前に他界しており、職人かたぎの厳しい人であった祖父は、長い間、独り身の生活を送っていました。
私が遊びに行くと、必ず祖父から命じられることがありました。
それは「お灸の手伝い」、それもニンニク灸です。
祖父は、畑仕事などで疲れた身体を日常的にニンニク灸で和らげていました。
スライスしたニンニクを背中や肩などの患部に置き、その上に「もぐさ」を乗せ、線香などで火を着けます。
この一連の作業を、小学生の私に手伝わせるのです。
もぐさがチリチリと燃えてくると、ニンニクの強烈な香りが鼻をつきます。
祖父はひたすら熱さに耐えるのですが、我慢をしすぎるとヤケドすることがあります。
そして、ヤケドによってできた水膨れを、私に破るように言ってくるのです。
いまでこそ水膨れ自体に痛みはないと分かりますが、まだ幼かった私は、祖父の背中を針で刺すなんてとてもできないと、泣いて嫌がったものです。
祖父が「お灸を外してくれ」と言うまでの間、私はそばで待ちます。
テレビ、たんす、お仏壇が所せましと配置されている祖父の部屋は、私にはとても居心地の良い部屋とは言えませんでした。
しかし、私がいないと熱いお灸をどかすことができないので、ただひたすら待ちます。
祖父が見ているニュース番組を一緒にぼーっと観たり、お年寄りが好きそうな渋いお菓子を一緒に食べたり...静かな時間が流れます。
先ほどまでニンニクを触っていた私の指はなんとも強烈な匂い。
「あぁ、お風呂に入ってもしばらく取れないんだよなぁ」と、いつも心の中でつぶやいていました。
■厳しさの中に愛情があった祖父
祖父は、分かりやすく孫を可愛がるタイプではありませんでした。
しかし、私がお灸でヤケドをしそうになったときなどは血相を変えて心配し、次に行ったときには「これを使え」と厚いゴム手袋が用意されていました。
子どもの手には大きく、扱いにくかったことを思い出します。
口数の少ない祖父でしたが、ときどきボソっと話をしてくれました。
話といっても祖父が一方的に「勉強はちゃんとしなさい」「お父さんとお母さんを大事にしなさい」といった内容だけ。
いま考えると、人生の助言のようなものばかりでした。
およそ楽しいとは言えないお灸タイムでしたが、私はこのお灸の手伝いが不思議と嫌ではありませんでした。
厳しい中にも愛情を持って接してくれる祖父の優しさや、「特別な仕事を任されている」という優越感のようなものを感じていたのだと思います。
そんな祖父はニンニク灸の効果なのかは分かりませんが、90歳を過ぎても元気に畑仕事に勤しんでいました。
祖父が亡くなったいまでもふとニンニクの香りを感じると、祖父の大きな背中を思い出します。
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