<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男性
年齢:60
プロフィール:地方都市で公務員をしている60歳男性です。田舎あるあるで車中心の生活、電車にはたまにしか乗りません。
2022年の7月頃、猛威を振るっていたコロナも少し落ち着き(こちらの感覚がマヒしただけかもしれませんが)日常を取り戻しつつあった頃、電話が入りました。
「よう、久しぶり! 元気してるか」
懐かしいその声は、大学時代の友人でした。
お互い還暦を迎え、久々に昔の仲間で飲もうじゃないかというお誘いで、即答でOKしました。
いつもは車で出向く街ですが、飲むとなるとそうもいきません。
久しぶりに電車を利用することにしました。
「いつぶりかなあ、もしかしたらコロナ以前が最後かも...」
もともと公共交通機関に乏しい田舎町です。
車中心の生活ですし、なるべく人混みを避ける思いもあり、この2、3年は電車の利用を遠慮していました。
電車は仕事や学校帰りの人でそこそこ混んでおり、立っている人もけっこういて、私もそんな一人でした。
そこへ杖をついた70代と思しき女性が乗り込んできました。
車内を見回して空席がないのを確認すると、残念そうに手すりに体を沿わせるようにして立っています。
その女性のすぐそばのシートには、女子高生らしい二人が座っていました。
すぐ脇に来た女性を気にして、チラチラと見ながら、何やらコソコソと話をしています。
一人が女性を指さしながら何か言うと、もう一人はクスクス笑いながらそちらを覗き込みます。
耳打ちするようにして、二人で顔を見合わせてニヤニヤし始めました。
「なんだ、感じ悪いな、気付いてるんなら譲ってあげればいいのに...」
私はそんな彼女たちをイライラしながら見ていました。
電車は次の駅に近づいていて、減速を始めました。
すると、二人の女子高生はそそくさと立ち上がり、女性のほうには目もくれずにドアのそばに進み、停車してドアが開くのも待ちきれない様子で駆け降りていきました。
二人が降りたあとのシートには杖を持った女性が安心したように腰を下ろしました。
「ふーん、自分たちが降りる時までは座ってようね、とか相談してたかな?」
しかし、女性は一駅分を座れずにいたわけで、さっさと譲ればいいものを、と思っていました。
「最近の若いやつは、って思うのは年を取った証拠だよなあ...」
なんの気なしに、ガラス越しに前方の車両を見やったときです。
さっきの二人の女子高生が乗っているではありませんか。
「あれ? 降りたはずなのに...車両だけ移ったってこと?」
二人は席についた女性を確かめながら、うれしそうに笑い合っていました。
どうやら、「どうぞ」と席を譲るのは気恥ずかしかったのでしょう。
さも目的の駅についたとばかりに席を空けて、女性を座らせようとしたのに違いありません。
目論見通り、女性に席を譲ることができ、してやったりと喜んでいるようでした。
2人は結局、私と同じ終点まで乗っていました。
懐かしい仲間たちに会い、飲み会がスタート。
「いやあ、最近の若いやつは、なんて思ってたけど、まだまだ捨てたもんじゃないよ...」
ついさっき見たエピソードを肴に、偉そうな談義で盛り上がりました。
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