<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男性
年齢:60
プロフィール:2022年4月に定年退職し、今は再任用で町の広報課で広報誌担当係長のアドバイザーをしています、が...。
「えっ! まさか、コロナの感染者を実名で掲載するなんて!」
2022年7月、私は課長(50代後半)が相談してきた内容を聞き、思わず叫んでしまいました。
「ウジさん、聞いてないの? Aさん(50代)が言ってきたから、君には相談済みかと思ってたよ」
Aさんとは2022年4月、定年退職した私に替わって自治体の広報誌を担当する係長になった同僚です。
私は再任用で彼の助言役となっているのですが、私がやってきたやり方にことごとく反旗を翻され、私の助言はほとんど無視されています。
「広報誌は町の行政の有り様をありのままに見せるものでなければならない」
彼独特のジャーナリズム精神を発揮しようとするのが、すれ違いの要因です。
「聞いてませんよ! 私に言えばまたいろいろ言われるのが面倒だったんでしょうよ」
わが田舎町もぽろぽろとコロナの陽性となる職員が出ていたころです。
しかし数は横ばいですし、大した症状もなく、真面目に自宅療養をしているので、それほど大事とは捉えられていません。
ところがAさんは、役場に感染が広まっていることは町民の健康安全にかかわる事態として知らせるべきと考えたようです。
「だからといって、実名で掲載なんてやりすぎでしょう」
「だから、ウジさんに確かめたんだよ、ちゃんと検討したのかって...」
課長と2人でAさんのところに行き、なんとか思いとどまらせようと説得を図りました。
「役場の職員とは言えプライバシーはある。広報に載せるのはその侵害だよ」
「名前まで出したら、思わぬトラブルにもつながりかねないんじゃないか?」
Aさんは、しばらく私たちの話を聞いていましたが、さすがに課長と2人がかりで止められたのではどうしようもないと思ったようで、不満ありありの様子で話し始めました。
「...では、名前さえ出さなければいいんですね。コロナの感染状況は、町民にとって重要な情報です。せめて所属部署名と人数の掲載はするべきと思います」
「いや、広報誌が出るのは感染状況がはっきりしてから1カ月後だ。意味のある情報とは言えないよ。いたずらに不安を煽るだけだ」
私がそう言って提案を拒否すると、Aさんは考えさせてください、と言って黙ってしまいました。
次の日、私は役場内のハラスメント対応の副町長(60代)に呼ばれました。
「...Aさんからね、君が不合理に自分の業務の邪魔をしている、って報告があってね...」
開いた口が塞がりませんでした。
慌てて広報課長にも同席をお願いして、事の次第を副町長に説明しました。
「...大変だねえ」
副町長にもすっかり同情されてしまいました。
「ただまあ、Aさんの言うことも一理あるし、どうにか落とし所を見つけられんもんかね」
と今度は課長が一考を求められました。
結局、Aさんの提案は、あくまでも先月の数値であることを明示した上で、感染者の人数のみ広報の裏表紙、市の概況の欄に併記することになりました。
「Aさんもかなり不満そうだったけど、これがギリギリの線だって伝えて押し切ったよ」
課長も渋々のゴーサインとなったようです。
助言をすればハラスメントと言われるのでは、アドバイザーはできません。
異様なジャーナリズム精神を発揮したり、自分のやり方に過剰にこだわったりする以外は、そつなく広報誌の編集をこなしているので、Aさんが力不足という訳でもありません。
とにかく波風立てることは避けてほしいと祈りながら歩む、どこまでも続く茨の道です。
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