一度は難病で音を失った麻生圭子さん。66歳の今、琵琶湖畔で「人生もリノベーション中」
念願の犬との生活で必要とされることを実感
――最近、念願だった仔犬を迎えられたとか。
ビーグルの男の子を迎えました。
イギリスにいたときに何十匹もビーグルを散歩させているところに遭遇して、かっこいいな、飼うならビーグルがいいなと思っていたんです。
最初は保護犬がいいなと考えていたんですけど、家族構成を理由に断られてしまいました。
ちょっと腑に落ちないですけど、その頃はまだ人工内耳をつける前で筆談だったんですよね。
たぶん、それでだめだったんだと思います。
結局滋賀県内のブリーダーから迎えました。
ずっと猫を飼ってきて、動物と人生を共にする感覚は知っていたつもりでしたが、犬って全然違うものなんですね。
びっくりしています。
特にビーグルはとても活発で、ただ愛情を持って育てているだけではきちんとしつけられないので、ドッグトレーナーにトレーニングをお願いしています。
でも、ちゃんと訓練すればちゃんと応えてくれるんですよね。
さすが犬だなって。
猫は自立しているのであまり関わりすぎないようにしていますが、犬はまだ仔犬ということもあり、私への依存度がすごい。
ベッドでもぴたっとくっついて寝るんです。
どんなに情けない存在になったとしても、誰かに求められる存在でありたい。
その点、犬は私がそばにいないとすごく寂しそうなんですよね。
こんなにも必要とされているのを実感できて、とっても幸せです。
トレーニングのときは、どういう状態か声で聴き分けるんですが、以前だったらそれができませんでした。
でもいまはクーンクーンとワンワンの違いを聴き取れる。
犬の声がうるさいぐらい。
だけどうるさいことが幸せなんです。
猫は死にかけて、うちに迷い込んできた子を迎え入れました。
現在の家族構成は、オスの猫と犬と夫、そして私なので3対1で私負けちゃってます(笑)。
うちは夫婦別姓ですし、通帳も別。
お互い好きに生きていると思います。
私たちではなく私とあなた。
向き合っているから言い合いもするし、自分の主張が通らないこともあります。
でも、そんなふうに言ってくれる人がいるのはとても貴重。
かつての私はわがままで感情の起伏も大きかったけれど、夫との摩擦でトゲが取れたように思います。
歳をとるたびに性格がよくなる、やわらかくなってきているように思います。
夫も昔に比べるとこだわりが薄れてきて、やさしくなってきたように思います。
そしてそんな夫と私にとって、犬と猫はまさにかすがいなのです。
――最近発見したことはありますか。
私は静けさが好き。
でも音が聴こえないことが静かではなく、聴こえる中での静けさが、本当の、心が震えるような静けさだと気付きました。
街中では聴こえないほどの静かな波音や風が葉を揺らす音が聴こえるようになって、ここが静かな場所だということを発見しました。
そう、静か。
静かだったんです。
取材・文/鷲頭紀子 撮影/石川奈都子 イラスト/小川温子
麻生圭子
主婦と生活社 1,760円
80年代アイドル曲の作詞家からエッセイストへ、転身のわけは、難病(若年発症型両側性感音難聴)の進行でした。人工内耳を入れ、66歳にして始める新たな人生。"MotherLake(母なる湖)"と呼ばれる琵琶湖の自然に抱かれた、夫婦でセルフリノベーションした小屋での夫と猫、最近仲間入りした仔犬との生活を、すてきな写真とともに紹介。人工内耳によって少しずつ音を感じ、受け取り、家族も自身も進化していく中で自分の心をいっそう開放。清々しさが染み入る著者の言葉に、これから先の人生を愉しむヒントがちりばめられています。
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エッセイスト
麻生圭子(あそう・けいこ)さん
1957年生まれ、東京育ち。80年代、作詞家として、人気アイドルのヒット曲を多数手がける。「若年発症型両側性感音難聴」が伴い、エッセイストに転身。96年、結婚を機に京都に移り住み、『東京育ちの京都案内』(文藝春秋)などを上梓。1年のロンドン生活を経て、2016年より琵琶湖畔に暮らす。


