【虎に翼】「詰め込み過ぎ」批判も覚悟の上か...現代社会で山積みの問題を朝ドラで描く脚本家・制作陣の思いを痛感
【前回】優三さん(仲野太賀)が魅力的すぎた? ヒロインの新しい恋の描写を「狡い」と感じてしまう理由
毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「脚本家・制作陣の思い」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
NHK連続テレビ小説『虎に翼』の第21週「貞女は二夫に見えず?」が放送された。今週含めて残るは6週。このくらいの時期になると、やることがなくなってくる作品も多数あるのに、まさかの尺足らず問題すら起こっているように見えるのが『虎に翼』の稀有な点だ。
史実によれば8年にわたる原爆裁判が進む中、今週は直明(三山凌輝)の結婚、寅子(伊藤沙莉)と星航一(岡田将生)の再婚と夫婦の姓の問題、LGBTQ、性転換などのジェンダーの問題が描かれた。
轟(戸塚純貴)から恋人・遠藤(和田正人)を紹介された寅子は、航一にプロポーズされたものの、迷っていることを轟とよね(土居志央梨)に話す。そこで寅子は、こんな発言をする。
「子どもを作るわけでもない。支え合わなくても経済的にも自立し合っている。それぞれの家族もいる。それなのに結婚する意味を見出せないと言うか......」
「結婚」という制度の外側にいる轟たちの前でそれを言う寅子。悪気なく自己チューで無神経でナチュラル上から目線なのは、ある意味ど真ん中をいく"朝ドラヒロインらしい"ところだ。しかし、何が悪かったかは理解していないものの、轟の表情に、自分の言葉が傷つけたことを感じ、反省する。
悩む寅子に、航一はプロポーズした理由について、婚姻自体が永遠の愛を誓うわけではなく「永遠を誓わない愛」であると気付いたことを法曹らしく説明する。「なるほど」と航一の口ぐせで返す寅子。
猪爪家では直明の結婚式の準備が着々と進められ、星家でも寅子と優未(毎田暖乃)を迎える準備が進むが、寅子はそこで結婚に付随する大問題に気付く。結婚したら「夫または妻の名字を名乗る」、つまりどちらかは名字が必ず変わるということ。それは個人の尊厳や平等とかけ離れているのではないか、と。
星姓になると、亡き夫・優三(仲野太賀)のことを含め、「佐田寅子」として生きてきた自分が失われる。佐田になった際は社会的地位を得るため、積極的に「猪爪寅子」を捨てた寅子が、2度目の結婚で初めて姓が変わることで失われるものに気づいたわけだ。夢の中に現われた裁判官寅子と、学生時代の猪爪寅子、星姓になった寅子など、5人のイマジナリー寅子が出てくる演出の遊び心と、何より演じ分ける伊藤沙莉は素晴らしい。しかし、寂しいのは、視聴者の多くがおそらく女学生時代の「はて?」満載の寅子に一番好感を抱き、懐かしく感じてしまったであろうこと。
その後、結婚を男女に限定して考えていた自分に気づいた寅子は、再び山田轟法律事務所を訪ね、轟に詫びる。すると轟は「人間なんてそんなもんだ」と言い、自分が子どもの頃から「男らしさ」にこだわり、男という型にハマっている実感をいつも欲していたこと、花岡(岩田剛典)への思いに気づいたのは花岡の死をきっかけに自分を振り返ったから、そして、よねが「私の前では強がらなくていい」と言ってくれたからだと話す。しかし、自分の気持ちを知った後も「どうせ世の中にはわかってもらえまい」と諦めていたとき、遠藤と出会い、後に互いに同じ思いを抱いていると知った。
「でも......この先の人生、お互いを支え合える保障が法的にない。俺らが死ねば、俺らの関係は世の中からはなかったことになる」
壁に書かれた憲法十四条は、寅子の背景にあり、轟はその埒外に座っているというニクイ演出だ。
轟に感謝し、裁判官としても人としても、自分に見えていない世の中のことを知りたいと言う寅子に、よねは「別にワガママじゃないだろ」と呟き、こう言う。
「結婚しても名字を変えたくないと思うこと。当然の権利だろ。誰の顔色気にして弱気になってるんだ」
悩む寅子を心配した優未は航一に相談、航一は自分が佐田姓になると言い出すが、百合(余貴美子)は反対。寅子もそれを望んではいないが、航一は結婚したい理由を改めて伝える。
「寅子さんの夫と名乗りたい。僕の妻ですと紹介したいんです。夫が妻だと名乗り紹介することは、世界中の人に『あなたを愛している』と伝え続けることと同じだと、そう思うんです」
こう聞くと、なんだか「結婚」というものがどうでもいいもののような気がしてくるが、寅子は賛同。
そこから、寅子は自分の実績を終わらせないため、仕事上では「佐田寅子」を名乗らせて欲しいと桂場(松山ケンイチ)に打診。しかし、桂場は反対。その理由は「裁判官だから」。「関わる事件の判決、令状、全ての文書に記名するときに戸籍上の名前と違うとなると、そこでケチがつき、信ぴょう性が失われるから」と説明する。裁判官の旧姓使用が認められるのは、実に平成29年になってからのこと。まだまだ遠い未来だ。
顛末を轟に話すと、轟は航一と優未を連れて事務所に来るように言う。事務所に集まっていたのは、ゲイカップルや性転換手術を受けた人など......。遠藤は言う。
「自分が曲げたいものを折るって、自分も折らせた相手も傷つけることなんです」
彼らの話を聞いたことにより、航一は結婚を辞めようと寅子に言う。現在の婚姻制度が自分たちの幸せにそぐわないならやめようと言い、婚姻届けの代わりに遺言書をかわそう、お互いの名字を名乗った上で「夫のようなもの」「夫婦のようなもの」になりたいと伝える。寅子も同意。
そして、直明の結婚式が無事に行われた後、直明は寅子のためにお返しをサプライズで企画。直明が涼子(桜井ユキ)に手紙を出したのをきっかけに、女子部の仲間たちが連絡を取り合い、玉(羽瀬川なぎ)を含む全員が判決文を読み上げる形で、寅子と航一の「結婚式のようなもの」が行われる。そして、寅子と優未は星家に引越し。新生活が始まるが......。
重要な問題がたくさん描かれていることで、「詰め込み過ぎ」と感じる視聴者は正直少なくなかった。また、同性愛者たちの中に女性の同性愛者がいなかったこと(脚本では描かれていたが、尺の都合でカットされたため、「透明化」されがちな存在をここでも透明化してしまったという声も)をはじめ、それぞれにもっと丁寧に繊細に描いて欲しい、深掘りして欲しいという声も噴出していた。
それにより、傷ついた人もいるかもしれない。その一方で、朝ドラという多くの人が観る枠で描かれたことに救われたと感じる人もいる。
そもそも本作は、第1話冒頭で読み上げられた憲法14条を軸に、全ての人の平等を考える物語になっている。この作品を「雨だれの1滴」とするわけにはいかないが、今の社会で山積している問題を、十分ではなくとも俎上に載せよう、まず声をあげよう、一歩踏み出そうという脚本家・制作陣の思いはしっかり受け止め、共に学びたい。
田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。


