弱い一つもかけ算で強くなる

「そんなの関係ねぇ!」はこうして生まれた

小島よしおさん――あるとき、木村圭太さんがDJを務めるクラブイベントについて行きました。

DJブースにいると、いきなり木村さんに「この音に合わせてラップをやってみて」とマイクを渡されました。いつもの愛のムチャぶりです。そのときやったネタが全然ウケなくて、「なんとかしなきゃ」と焦って、とっさに出た言葉がこれでした。

「すべったけど......、そんなの関係ねぇ! そんなの関係ねぇ!」

すると、これが意外にウケて、「そんなの関係ねぇ!」の大合唱が起きました。

それから数カ月が経ち、僕がこのギャグをあらためて意識するようになる出来事がありました。ラジオのネタ番組で何をやろうか頭を抱えていたら、クラブイベントにも来ていた当時の恋人が、「あのときのギャグが私の家で流行ってるよ」と教えてくれたのです。僕はすっかり忘れていたのに、彼女の中で生き続けていたことに驚きました。ラジオでこのネタをやってみたら、入賞することができました。

「そんなの関係ねぇ!」をライブでやり始めたのはそこからです。

当時、僕らのような新人が事務所ライブで披露するのは、1分ネタから始まって、勝ち上がると3分ネタ、4分ネタ......と持ち時間が増えていきました。1分ネタでは服を脱ぎながら怖い話をしていましたが、3分ネタに昇格したときに、「そんなの関係ねぇ!」と組み合わせてみたんです。

服を脱ぎながら怖い話をしても、服を脱いじゃったから、全然怖がられてない。

「あーヘタこいた! でも、そんなの関係ねぇ!」

このときたまたま裸でこのギャグをやったので、それ以来、裸が定番になりました。「このネタ、なんで裸なの?」とよく聞かれましたが、これが海パンスタイル誕生の真相です。

当時、ライブのお客さんには女性が多くて、そこに僕が裸で出ていくとドン引きでした。でも、そのドン引きな感じも含めて、袖(そで)で見ていた芸人の先輩たちがめっちゃ笑ってくれたんです。それがうれしくて、このギャグを続けることができたようなものです。芸人の先輩が笑ってくれさえすればいい。そんな感覚でしたね。

ナンバー1か、オンリー1か

稲垣栄洋先生――ナンバー1であることが大切なのだろうか?

それともオンリー1であることが大切なのだろうか?

じつは、自然界には明確な答えがある。

「ナンバー1でなければ生き残れない」これが自然界の法則である。

自然界はナンバー1をめぐるイス取りゲームである。イスを取れないナンバー2は、滅びるしかないのだ。

しかし、そうだとすると不思議である。

ナンバー1でなければ生き残れないとすれば、自然界にはたった一種類の生き物しか存在できないことになる。

それなのに、実際には自然界はたくさんの生き物があふれている。

これはどうしてなのだろう?

じつはナンバー1になる方法は一つではない。ナンバー1になる方法は、たくさんあるのだ。

そして、ナンバー1になる方法を手に入れた生物が生き残る。つまり、ナンバー1になる方法は、その生物だけのオンリー1のものなのだ。

「ナンバー1になるためのオンリー1の場所」を手にすることが大切なのである。

それでは、どのようにすれば、ナンバー1になることができるだろうか。

重要なことは、しぼり込むことだ。

たとえば、植物の中でナンバー1というのは難しい。

しかし、水辺で咲く花というと、少ししぼり込まれる。さらに「水辺で春に咲く花」というように季節をしぼり込むと、ナンバー1になれる可能性が高まる。

効果的な方法は、掛け合わせることだ。「水辺で咲く」「春に咲く」「朝に咲く」としぼり込んだ要素を掛け合わせていくと、しぼり込まれて、よりナンバー1になりやすくなるのだ。

生物にとっての「ナンバー1になるためのオンリー1の場所」は、生物学では先述した「ニッチ」と呼ばれる。

ビジネスの世界でニッチというと、「すき間」というイメージがあるが、実際にはニッチはすき間という意味はない。ニッチは大きくてもいいのだ。しかし、大きいニッチでナンバー1になることは簡単ではない。ナンバー1になろうとすれば、条件をしぼり込んだ方がよいから、結果的にニッチは小さくなる。そして、さまざまな生物が小さなニッチを分け合いながら暮らしているのである。

オンリー1の独創性を演出する上で、効果的な方法の一つが「かけ算」をすることだ。

「怖い話」を芸にする人はいくらでもいる。服を脱ぐ裸芸をネタにする人もいくらでもいる。そこで、小島さんは「怖い話」と「裸芸」を組み合わせた。しかし、それでもお笑いとしては弱い。そこで、さらに「あーヘタこいた! でも、そんなの関係ねぇ!」と音楽とフレーズネタと振付を組み合わせた。「そんなの関係ねぇ!」は、まさに、かけ算によって生み出されたのである。

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稲垣栄洋
農学博士、植物学者。1968年、静岡県生まれ。静岡大学大学院教授。岡山大学大学院農学研究科修了後、農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に、『弱者の戦略』(新潮選書)、『生き物の死にざま』(草思社)などがある。


小島よしお
芸人。1980年、沖縄県生まれ。早稲田大学在学中にコントグループ「WAGE」でデビュー。2006年より、ピン芸人として活動。2007年に「そんなの関係ねぇ!」で大ブレーク。年間100本以上の子ども向け単独ライブを行い、“日本一子どもに人気のお笑い芸人”として活躍している。主な著書に、『おっぱっぴー小学校算数ドリル』(KADOKAWA)、『小島よしおのボクといっしょに考えよう』(朝日新聞出版)などがある。