親から遺産を受ける、子どもたちへ遺産を渡す、どちらの相続の場合も「事前準備」が肝心です。準備をしていないと、トラブルの原因になったり、適切な節税策をとれなかったり...。そこで今回は相続のプロである税理士・清田幸弘氏が、父親の相続の際に感じた「相続の現実」をまとめた書籍『相続専門の税理士、父の相続を担当する』(あさ出版)をご紹介。これから相続を迎えるすべての人に知ってほしい内容を抜粋してお届けします。

※本記事は清田幸弘著の書籍『相続専門の税理士、父の相続を担当する』から一部抜粋・編集しました。

【前回】相続税を軽減できる!? 相続対策を「できるだけ早く」始めた方がいい理由

「遺言書」を作成する「3つのメリット」とは? 書き方や実例を学んで「相続トラブル」を回避しよう(2)

相続トラブルを回避するために、遺言書をつくっておく

「遺産分割のしかた」と「家族への想い」を遺言書に残す

父が亡くなる20年以上前から、私は父に「遺言書」の必要性を伝えていました。

遺言書は、被相続人が、遺産相続についての最終的な想いを伝える書面です。

父は、遺言の中身について司法書士と相談をしながら、「遺産分割のしかた」と、「家族に対する想い、感謝の気持ち」を遺言書に残していました。

【遺言(いごん・ゆいごん)】
ある人の生きている間の最終的な意思決定(財産の分割方法など)を、その人が死んだあと、具体的に実行させるための方法。満15歳以上になれば、いつでも作成できる。

父が「病気になってから」ではなく、「まだ元気なとき」に遺言書の作成をお願いしたのは、

「亡くなる直前だと、父の死が現実味を帯びてくる(父が死を意識して、動揺しかねない)」

「仮に認知症などで判断能力がなくなった場合、遺言が残せない」

「相続をする子どもたちにとって、相続のことは尋ねにくい」

「家族に対する父の想いを残してほしい」

といった配慮からでした。

遺言書作成の依頼先は、弁護士、司法書士、行政書士、税理士、金融機関などです。

相続税対策なら税理士、権利関係の複雑な不動産がある場合は司法書士、相続トラブルの起きる可能性が高いときは弁護士、気軽に遺言書を作成したい人は行政書士など、それぞれの専門家によってメリットやデメリット、費用が異なります(父は不動産を所有していたため、司法書士に依頼しています)。

どの専門家に依頼すればいいかわからないときは、相続に精通するコンサルティングファームに相談するのがよいでしょう(コンサルティングファームであれば、弁護士、司法書士、行政書士、税理士が在籍しているため、適任者が見つかりやすい)。

遺言書の種類、つくり方は法律で定められていて、それ以外の方法で作成されたものは無効です。

「あの人は、生前にこう言っていた」といった口約束や、録音テープや動画を残していても、遺言としての法律上の効力はありません。

遺言には、大きくわけると、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の2種類あります。

父が作成したのは、公正証書遺言です。

法律に詳しくない場合、自筆証書遺言だと不備が残り、認められないケースがあるからです。

【自筆証書遺言】
遺言者が自分で全文、日付、氏名を書いた遺言書。自筆が条件であり、代筆やテープへの録音は無効だが、平成31年1月13日以後は自筆でない財産目録を添付して自筆証書遺言を作成できるようになった。また法務局に作成した遺言を預けることもできる。遺言者がひとりで作成できるので、費用もかからず、簡単に作成できる。財産の情報が外部に漏れることもない。しかし、紛失や偽造のおそれがあり、内容に不備があると無効になる。

【公正証書遺言】
公証役場(公正証書の作成を行う官公庁)で作成してもらう遺言書。専門家が作成するため法的効力が強く無効になりにくく、紛失や偽造のおそれもない。ただし、財産の価格をもとに公証人手数料がかかる。

規定どおりに相続が行われることは少ない

約6000件の相続案件を見てきて思うのは、「うちには財産がないから、遺言書なんて書かなくても大丈夫」「うちは兄弟仲がいいから、財産の分割で揉めることはない」と考えている人のトラブルが増えていることです。

前述したように、相続が発生した場合の「法定相続分」(誰が、どれだけの財産を受け継ぐか)は、民法で決められています。

ところが、現実には、「財産が不動産だと、きれいに分割できない」「親の面倒を見てきた子どもと、そうでない子どもが同じ配分でいいのか、といった心情的なわだかまりがある」「被相続人の中には、配偶者や子どもだけでなく、孫や親戚にも財産を残したいと考える人がいる」といった理由から、規定通りに相続が行われることはまれです。

したがって、次のような場合には、揉めごとが起きないように遺言書を作成して、「誰に、どの財産を、どれだけ譲るか」をはっきりさせることが大切です。


遺言書を残したほうがいいケースとは

・不動産など、分割しにくい財産がある
・法定相続人以外にも財産を譲りたい
・特定の人に特定の財産を指定したい
・夫婦の間に子どもがいない
・相続人がいない
・ 前妻(前夫)との間に子どもがいる
・社会的に意義のある団体に寄付をしたい


第3条 遺言者がこの遺言を作成する趣旨は、次の通りである。
遺言者は長年連れ添った妻花子の今後の生活が心配でならない。遺言者の財産は一人で築いたものではなく、妻花子の協力によるところが大きい。相続人長男〇〇および長女〇〇は第1条に定める相続を了解して、花子が幸福に暮らせるように協力してほしい。したがって、遺言者の意思を尊重し、遺留分侵害額請求などしないようにお願いする。


[公正証書遺言の例]

令和〇〇年第〇〇号
遺言公正証書
 本公証人は、遺言者〇〇太郎の嘱託により、証人〇〇、同〇〇の立会いのもとに、遺言者の口述した遺言の趣旨を筆記して、この証書を作成する。

第1条 遺言者は、その所有する次に掲げる不動産を含む
 一切の財産を遺言者の妻〇〇花子に相続させる。
 1 横浜市〇〇区〇〇一丁目1番1号 宅地165㎡
 2 前記同所所在
    家屋番号〇〇番
    木造瓦葺2階建居宅 1階80㎡ 2階50㎡
 3 〇〇銀行〇〇支店の遺言者名義の預金全部

第2条 遺言者は、この遺言執行者として、次の者を指定する。遺言執行者はこの遺言を執行するため、〇〇銀行〇〇支店の預金の解約、払戻、名義書換請求を請求する権限及びその他この遺言執行のために必要な一切の権限を有する。
 住所 横浜市〇〇区〇〇二丁目1番1号 
 職業 行政書士 〇〇
         昭和〇〇年〇〇月〇〇日生


遺言書を残す3つのメリット

遺言書の内容は、法律よりも優先される

遺言書に相続の方向性を指示しておけば、相続トラブルを未然に防ぐことができます。

遺言書に記載された内容は、法律で定められた割合よりも優先されます。

遺言書のメリットは、おもに「3つ」あります。

【遺言書のメリット】

(1)遺産分割が円滑に進む

「長男には土地を残し、それ以外の子どもには現金を残したい」といったように、家族関係の状況に応じて財産を分けることができます。

(2)法定相続人以外にも財産を譲ることができる

「孫にも財産を遺贈したい」

「介護をしてもらった長男の嫁にも財産を残したい」

「お世話になった友人に財産を渡したい」

「ボランティア団体に寄付したい」

など、法定相続人以外にも財産を残すことができます。

ただし、法定相続人には「遺留分」が認められています。

遺留分とは、「一定の相続人のために、法律上、必ず残しておかなければならない遺産の一部分」のことです。

仮に兄弟が2人いて、遺言書に「すべての遺産は長男に譲る」と書いてあったとしても、次男が遺留分の権利を主張すれば、一定の範囲内で取り戻すことができます(遺留分侵害額請求といいます)。

(3)相続税申告期限内に申告ができる可能性が高くなる

遺言書がないと、相続人全員で「遺産分割協議」を行うことになります。

遺産分割協議とは、「亡くなった人が残した財産を、どのように分けるかを相続人全員で話し合うこと」です。

【遺産分割協議(書)】
遺産の分割方法を相続人全員で協議して定め、書面を作成する。相続人の数だけ作成し、全員の署名、実印を押印して各自1通ずつ保管する。

人数が多くなるほどさまざまな意見が飛び交い、話がまとまりにくくなります。

遺産分割協議書は、相続人の中でひとりでも納得できない場合は、成立しません。

全員の同意が必要です。

相続税の申告期限内に遺産分割が確定しないと、未分割で申告することになり「小規模宅地等の特例の適用」や「配偶者の税額軽減の適用」が受けられなくなります。

「遺言書」を作成する「3つのメリット」とは? 書き方や実例を学んで「相続トラブル」を回避しよう(3)

『相続専門の税理士、父の相続を担当する』

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清田幸弘

ランドマーク税理士法人代表税理士、立教大学大学院客員教授。横浜農協(旧横浜北農協)に9年間勤務、金融・経営相談業務を行う。資産税専門の会計事務所勤務の後、1997年、清田幸弘税理士事務所設立。その後、ランドマーク税理士法人に組織変更し、現在13の本支店で精力的に活動中。急増する相談案件に対応するべく、相続の相談窓口「丸の内相続プラザ」を開設。また、相続実務のプロフェッショナルを育成するため「丸の内相続大学校」を開校し、業界全体の底上げと後進の育成にも力を注いでいる。