高齢者が増える一方の現代社会、さまざまな介護用品が市場に出回っています。でも「どんな意図で作ったのか」「使ってみて実際どうなのか」が分からず、購入に迷っているかたや、ユーザーの意見を知りたいかたも多いのではないでしょうか。そこで「毎日が発見」編集部がその製品を体験! 実際に使ってみてどうだったか、また製品開発者の思いなどを紹介します。今回は車いす専用のレインウェアを取り上げます。
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きっかけはスポーツ観戦用のレインポンチョ
水産・レジャーのレインウエアや長靴を80年以上製造と販売しているメーカー「弘進ゴム株式会社」は、20年以上前から高齢化社会に向けて介護用品にも着手。介護の簡易浴槽やお風呂用のすべり止めマットなども作るようになりました。
レインウエアの新規商品として、スポーツ観戦用のレインポンチョを作製。球場などで販売して好評を得ました。介護分野でも利用できるのではと思い、福祉機器の展示会に出品したところ、介護をしているお客様が車いすで移動する際に使うからと購入を希望されました。
「車いす用ではありませんが...」と説明したところ、そのお客様は、「現在、市場で販売されているものは金額が高く、ズボンが付いたりしています。ズボンは不要だし、もう少し安いのが欲しかったんです。それに大雨の時は、長時間、車いすで移動はしません。ちょっとした移動に簡単に着せられるレインウエアが欲しかったので、これで十分なんです」といわれたそうです。
皆さんの意見に耳を傾け、2タイプを作製
このことをきっかけに、弘進ゴム株式会社では車いすの方に向けきちんとしたレインウエアを作ろうと取り組むことにしました。販売するからには、いろいろな人の意見を聞いて商品化することに。そこで福祉機器の展示会に試作品を出品し、どうしたらいいか、改善点を聞いては修正する作業を2年間繰り返したそうです。
試行錯誤の末、2016年「はおるっちゃ」が完成。座ったままでも着脱が容易な「ポンチョタイプ」、両腕が付き車いすを自走できる「コートタイプ」の2種類を作りました。両方ともにひじ掛と座面をぬらさないよう車体をカバーするゆったりした寸法になっているのが特徴です。
「はおるっちゃ」パッケージ。
両腕付きの「コートタイプ」5,800円(写真左)、腕をすっぽり覆う「ポンチョタイプ」5,500円、 (各税抜き)。携帯に便利な袋付き。
コートタイプは袖付きのため車いすを自走可能。
つばには大型の透明バイザーを付け、視界をよくしました。また、足元や背もたれの荷物をすっぽり覆うカバーも付け、濡れないよう配慮。さらに生地は80年の経験を活かして蒸れにくく防水性に優れた透湿防水生地を採用。縫い目から雨が漏れることのないよう防水加工を施しました。
透明のつばが長めなので雨の侵入も防げる。
背もたれの荷物もしっかりカバーできる。
実際に着用してみると、上や左右の視界がかなり広く周りを見まわせますし、足元まできちんと覆われているので、小雨ならしのげそう。何より脱着が簡単なのが魅力! 1つのレインウエアに、開発者の工夫と思いが詰まっていました。
弘進ゴム株式会社の進藤三美さん。「納得のいくレインウエアを作ることができたのは、皆さんの意見のおかげです。少しでもお役に立てればうれしいです」
取材・文/中沢文子 撮影/吉澤広哉