2016年5月の誕生日で50歳を迎えた君島十和子さん。
20代で活躍されていた女優時代からの美しさは、健在! 素敵に歳を重ねておられる女性の代表として、いまでも多くの支持を受けています。
「決断」をテーマにした本書『私が決めてきたこと』から、妻として、母として、働く女性として、がんばる女性を応援する君島十和子さんのメッセージを受け取ってください。
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前の記事「子どもを持つのか、持たないのか/君島十和子「私が決めてきたこと」(9)」はこちら。
今やることを、ひとつだけ見極めて、
こなせた自分を、しっかり認めてあげます。
幼いころは、大人になれば、どんなことも颯爽(さっそう)とこなせる女性になれると思っていました。アメリカのコメディドラマ『奥さまは魔女』のサマンサが魔法を使うように、何ごとも軽々と、たちどころに仕上げることができる自分――そんな夢想をしていました。
とはいえ、現実はもちろん、そんなに甘いものではありません。
例えば、長女が小さかったころのことです。夕食をつくっていたら外の日がかげり、雨雲がかぶさってきました。「濡れては大変」と取り込んだ洗濯物をたたみはじめたところ、今度は子どもがぐずり出して、抱っこしたり、あやしたり、授乳したり。やっと寝かしつけて、部屋を振り返れば、つくりかけの夕飯に、散らばった洗濯物......。結局、すべての作業がやりっぱなしになっている。
計画どおりになんて物ごとは進まず、あとになってパニックに陥るということが何度もありました。
「私が今、いちばんにしなきゃいけないことは何?」
長女が1歳半を過ぎてから、KIMIJIMAのブティックでファッションアドバイザーをはじめました。そして、次女が生まれたあと、2001年にセレクトショップ「フェリーチェ 青山」をオープンしてからは、さらに仕事が忙しくなりました。
「この書類を読まなければいけない、体操教室に子どもたちをそろそろ迎えにいかなければいけない、その前に、あそことここに電話をかけて......」「ああ、銀行に行って支払いも済ませなきゃ。子どもたちを迎えに行く時間には遅れてしまっている......。夕食の材料も買っていない。もう、どうしよう!」
こんな事態に直面することは日常茶飯事でした。サマンサのように要領よく物ごとをこなすことができず、仕事も子育ても中途半端にしかこなせない。自分への情けなさがどんどん募っていきます。
そんなふうに、「あれもしなきゃ、これもしなきゃ」と頭がいっぱいになっていた、ある日のこと。子どもたちを迎えに車を走らせているさなか、私はヒヤリとしたことがありました。もし今、私が焦って、事故でも起こしたら?すべてが滞(とどこお)るばかりか、家族はもちろん、どれだけ大勢の人たちに迷惑をかけてしまうのだろうか......。
私はあわてて車を路肩に停め、目をつぶり、懸命に気持ちを落ち着かせました。そして、「私が今、いちばんに大事なこと、いちばんにしなきゃいけないことは何?」と自問しながら、最優先事項を手帳に走り書きしたのです。
その日のうちにやるべきことが複数あっても、今この瞬間にできることは限られています。車を運転しながら銀行振り込みをすることは、どうしたってできません。「だから、まず、娘たちを安全に迎えにいく。これだけに集中しよう!」手帳の文字を見つめて、そう心に決めたのです。
ときどき、自分を認めてあげる
ひとつだけをこなそうと決めると、不思議と心が落ち着きました。落ち着けば、確実にその用事をこなすこともできました。その日にやるべきいくつかの用事がこぼれてしまうことは、それ以降も変わらずにありました。ただ、そんなときでも、
「少なくとも、今日いちばんにやらなきゃいけないことはできたんだから、今日はこれでよしとしよう!」
と思えるようにして、自分を必要以上に責めることをやめたのです。
ときどきでいいから、自分を認めてあげる。私にとって、これは、とても大切なことでした。だから最優先事項を決めて、それさえできればOK。他人様に迷惑をかけない点だけを心がけていれば、たいていのことはなんとかなる!そう自分を励ましながら、気持ちに折り合いをつけてきました。
実際は、「家事も仕事も育児も、そのときやれる人がやればいいのだから」と言ってくれる主人に、子どもたちの迎えや夕食の買い物などを、ずい分と助けてもらっていたのですが......(笑)。
できない自分を責めるとパニックになりますが、たった1つでも成果を出せた自分にフォーカスすれば気持ちも明るく上向きにできます。
自分で自分の気持ちを楽しくし、前向きに保つ。
これもある種の強さだと思っています。
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君島 十和子(きみじま・とわこ)
高校在学中に「,85年JAL沖縄キャンペーンガール」に選ばれ、芸能界デビュー。1986年女性誌『JJ』のカバーガールを務め、同誌で専属モデルに。のちに舞台、テレビなどを中心に女優として活躍。結婚を機に芸能界を引退。2005年、20数年に及ぶ美容体験をもとに、化粧品ブランド「FTC(フェリーチェ トワコ コスメ)」を立ち上げ、20種類にも及ぶ製品ラインナップを開発。著書に『十和子イズム』(講談社)、『君島十和子の「食べるコスメ」』(小学館)、『十和子塾』『十和子道』(集英社)など多数。
『私が決めてきたこと』
(君島十和子/KADOKAWA)夢をあきらめたこと、大変だった子育て。すべてが「いま」につながっている―。 君島十和子さんが50歳になったいま、妻として、母として、働く女性として感じていること。「決断」をテーマにし、女性がしなやかに強く生きるための31の秘訣をまとめた1冊です。