"支える"って、どういうこと? 血液がんの患者とケアラーが語り合う「これからのがんケア」

"支える"って、どういうこと? 血液がんの患者とケアラーが語り合う「これからのがんケア」 IMG_5409.jpeg

ファイザー株式会社が主催する特別企画「血液がん(多発性骨髄腫)の患者さんとケアラーの声から考える、これからのがんケア」が開催されました。講演では、現場から見えるリアルな課題とがん患者のケアラー500名の意識調査結果を紹介。さらに、視界を閉ざして心の奥を語り合う対話型ワークショップ「ブラインド・トーク」では、多発性骨髄腫の患者やケアラーらが自身の体験や葛藤を語り合いました。

がんとともに生きる人を支える"ケアラー"の存在を見つめ直す

"支える"って、どういうこと? 血液がんの患者とケアラーが語り合う「これからのがんケア」 001.jpg

最初に登壇したのは、LIGARE血液内科太田クリニック・心斎橋の院長、太田健介先生。「がん治療におけるケアラーの役割~血液がん(多発性骨髄腫)を例に~」と題し、患者を支える"ケアラー"の現状と課題について語りました。

ケアラーとは、病気や障がいなどで心身のケアが必要な家族や友人を、無償で支える人のこと。介護や看病、身の回りの世話などを行う中で、生活や仕事が制限され、心身の疲労を抱える人も多いといいます。

埼玉県ケアラー支援計画のためのケアラー実態調査(がんケアラー以外も含む)によると、約7割のケアラーが何らかの悩みを抱えており、「心身の疲れ」「経済的な不安」「自由な時間のなさ」「将来への不安」などが上位にあがっています。太田先生は「ケアラーは情報不足と孤立感に悩んでいる」とし、相談体制や休息の場、緊急時の支援など、社会的な支えの必要性を強調しました。

"支える"って、どういうこと? 血液がんの患者とケアラーが語り合う「これからのがんケア」 スクリーンショット 2025-11-13 20.42.39.png

続いて太田先生は、この日のテーマである「多発性骨髄腫」という血液がんについて紹介しました。多発性骨髄腫は、白血病、悪性リンパ腫に次いで多いがんで、抗体を作る"形質細胞"ががん化し、骨の痛みや貧血、腎障害などを引き起こします。以前は平均生存期間が2年ほどとされていましたが、現在ではこの病気に関する新薬が多く登場。治療が長期化したことで、"がんと共に生きる時代"が現実となりました。

一方で、治療は長く続き、副作用との戦いや経済的負担も大きくなります。長い闘病生活の中では、患者自身の苦痛だけでなく、支える側のケアラーにも心身のストレスが蓄積します。

"支える"って、どういうこと? 血液がんの患者とケアラーが語り合う「これからのがんケア」 007.jpg

ケアラーは患者の心と体に寄り添い、その苦しみを共に背負う存在。しかし現状では、社会的支援も法整備もまだ十分ではありません。多発性骨髄腫のように治療が長期化するがんこそ、患者とケアラーの両方を支える仕組みが必要だと太田先生は訴えます。

「二人に一人ががんになる」と言われる時代。がん患者とケアラーがともに穏やかに生きていくための支援のあり方を、社会全体で考えることが求められているのです。

手探りで支えるケアラーたちの現実――500人の声から見えたこと

"支える"って、どういうこと? 血液がんの患者とケアラーが語り合う「これからのがんケア」 016.jpg

続いて登壇したのは、「日本骨髄腫患者の会」代表の上甲恭子さんです。「がん患者のケアラー500名の意識調査結果から見えること」と題し、患者を支える家族や友人のリアルな声を紹介しました。

上甲さん自身も、かつて多発性骨髄腫を患った父親のケアラーだった経験があります。当時は有効な治療法がほとんどなく、余命3年と告げられたのだそう。そばでサポートをするために、仕事を辞めて付き添うことを決めた上甲さん。入院や通院に寄り添い、主治医と信頼関係を築いていったそうです。当初、余命3年と宣告されていた父親は6年間の治療を経て他界。父親の死後も「海外では使えるのに日本では使えない薬がある現実を変えたい」「同じ立場の家族がつながり、情報を共有できる場を作りたい」という思いから、活動を続けてきました。

日本骨髄腫患者の会は間もなく設立30年を迎え、「骨髄腫が治る病気になること」を目標に、啓発や支援の輪を広げています。「多発性骨髄腫の患者を支えるケアラー500名への意識調査」の結果を報告しました。調査の対象は患者を支える家族や友人などで、職業としてケアに関わる人は除外されています。

"支える"って、どういうこと? 血液がんの患者とケアラーが語り合う「これからのがんケア」 スクリーンショット 2025-11-13 21.00.55.jpeg

「患者の思いや望むことを理解していると思うか」を尋ねたところ、理解しているとは感じられない中でケアを行っている人が、半数以上を占めました。多くのケアラーが"手探りのサポート"を続けている実態が明らかになっています。

"支える"って、どういうこと? 血液がんの患者とケアラーが語り合う「これからのがんケア」 スクリーンショット 2025-11-13 21.06.11.png

患者のために行ったことがあるサポートの内容としては、「悩みや心配事を聞く」、「気晴らしに付き合う」といった"心の支え"を中心に、「病院への付き添い」、「入院時の身の回りのサポート」などが挙げられました。上甲さんは「これで本当に喜んでくれているのか、自分のサポートが合っているのか。ケアをしながら常に自問していた」と、自身の体験を重ねて語りました。

"支える"って、どういうこと? 血液がんの患者とケアラーが語り合う「これからのがんケア」 スクリーンショット 2025-11-13 21.09.59.png

また、半数近くのケアラーが患者のサポートに「精神的な負担を感じている」と回答。上甲さんは「ケアラーにも心のケアが必要だということが、この調査から見えてきた」と強調します。

"支える"って、どういうこと? 血液がんの患者とケアラーが語り合う「これからのがんケア」 027.jpg

最後に、「誰もががん患者にもケアラーになる可能性があります」と上甲さん。「介護休業制度などがあっても、毎週の通院に付き添うような支援には限界があります。制度を急に変えるのは難しいかもしれませんが、様々な問題があるということを皆さんに知っていただくことが次の一歩になると思います」と呼びかけました。

見えていなかった"思い"を言葉にする対話型ワークショップ『ブラインド・トーク』

"支える"って、どういうこと? 血液がんの患者とケアラーが語り合う「これからのがんケア」 035.jpg

講演のあとは、会場を移して対話型ワークショップ『ブラインド・トーク』が行われました。患者とケアラーの間にどんなすれ違いが起きているのかを知る試みとして、このワークショップが実施されました。

『ブラインド・トーク』とは、視覚を使わずに相手と向き合うコミュニケーション手法です。今回は、視覚障がい者であるブラインド・コミュニケーターがファシリテーターを務め、参加者はアイマスクを着けて対話に臨みました。視覚情報を遮断することで、普段は見過ごしてしまう自分の感情や思考に目を向け、言葉の奥にある"本当の思い"を掘り下げていきます。対話の内容はグラフィック・レコーディングによって絵と文でリアルタイムに可視化されます。

ワークショップには、多発性骨髄腫の患者とケアラー、医療ソーシャルワーカー、ブラインド・コミュニケーター、サポートスタッフ、そして講演を行った太田先生、上甲さんも参加。視界を閉ざしながら、自身の体験や葛藤を語り合いました。

"支える"って、どういうこと? 血液がんの患者とケアラーが語り合う「これからのがんケア」 050.jpg

あるケアラーは、治療が順調に進む妻を支える中での"すれ違い"を振り返りました。 「この先に何か起こるかもしれないからこそ、しっかりと医師に確認しておきたい」と思っていた夫に対し、妻は「私と先生の信頼関係を壊さないでほしい」と感じており、互いの"時間軸"がずれていたことに、その対話の中で気づいたといいます。

"支える"って、どういうこと? 血液がんの患者とケアラーが語り合う「これからのがんケア」 グラフィックレコーディング画像データ.jpg

目を閉じて語ることで、相手の表情を読むのではなく、言葉そのものに耳を澄ます。『ブラインド・トーク』は、そんな"見えない対話"を通して、患者とケアラーそれぞれの立場の違いや思いのズレを浮き彫りにしました。

* * *

今回のセミナーを通して見えてきたのは、病気そのものだけでなく、"ともに生きる"ための支え合いの形をどう築いていくかという課題です。患者とケアラー、医療者、社会、その誰もが「一緒に考え、寄り添う」姿勢を持つことこそが、これからのがんケアに必要な第一歩なのかもしれません。

取材・文=宇都宮薫

 
PAGE TOP