タワークレーンはどうやってビルの上に上がるのか? 身のまわりのモノの技術(1)【連載】

タワークレーンはどうやってビルの上に上がるのか? 身のまわりのモノの技術(1)【連載】 pixta_26787363_S.jpgタワークレーンを見て「クレーンを屋上に上げるのは誰だろう?」と思ったことはありませんか? また、プラモデルを作っていて「どうして瞬間的にくっつくのだろう?」と考え始めると、プラモデル作りよりもその疑問に関心が向いてしまうことも。それもそのはず、私たちの身のまわりの多くの「モノ」は、20世紀の科学技術の結晶なのです。
本連載では「モノ」の疑問を、図を交えてわかりやすく解説します。「なぜ?」「どうして?」という疑問がスッキリ解消するはずです。

9/1より毎週金・土曜更新


高層ビルの建設工事でいちばん高いところでマメに活躍しているモノがある。タワークレーンだ。建築中にいちばん目立つので、工事の見物人の人気者になっている。
タワークレーンは高層ビルの建築に欠かせない。低層のビル建築ならクレーン車で資材を最上階まで届けられるが、高層ビルの建設ではそうはいかないからだ。資材を最上部に持ち上げるには、どうしてもタワークレーンの力が必要なのだ。
ところで、このタワークレーン。見ていると不思議なことが起こる。ビルの成長に合わせて、自分も高い位置にどんどん移動しているのだ。


タワークレーンの一連の工事の流れは、①組み立て→②クライミング→③解体の順で行なわれる。

①の「組み立て」は足場を固める作業である。次の②の「クライミング」では、ビルの成長に合わせて、クレーンを尺取虫(しゃくとりむし)のように這(は)い上がらせていく。③の「解体」では、親亀・子亀・孫亀方式で屋上から分解していく。すなわち、ひと回り小さい子クレーンを元の親クレーンの隣に設置し、それで親クレーンを解体する。次に、その子クレーンはさらに小さい孫クレーンを隣に設置して解体するのである。これらを繰り返すことで、御用済みのタワークレーンは地上に下ろされるのだ。最後に残った解体用クレーンは、人力で解体してエレベーターで階下に下ろすことになる。

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尺取虫的にタワークレーンがクライミングする方法には、クレーン本体がマストを昇るマストクライミングと、工事の進捗とともに工事中の鉄骨を利用して土台部分を階上に上げるフロアクライミングがある。前者は超高層マンションの建築に、後者は超高層のオフィスビルの建築によく利用される。

上の「タワークレーンのクライミング」の図はフロアクライミングを示している。
 ちなみに、電線の鉄塔を建築する際にもクレーンのクライミングが用いられる。山奥に高い鉄塔が立っている不思議も、これで解決される。

涌井 良幸(わくい よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。現在は高校の数学教諭を務める傍ら、コンピュータを活用した教育法や統計学の研究を行なっている。
涌井 貞美(わくい さだみ)

1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程を修了後、 富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校の教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。

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「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」
(涌井良幸 涌井貞美/KADOKAWA)
家電からハイテク機器、乗り物、さらには家庭用品まで、私たちが日頃よく使っているモノの技術に関する素朴な疑問を、図解とともにわかりやすく解説している「雑学科学読本」です。

 
この記事は書籍「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」からの抜粋です。
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