夏木マリインタビュー(2)「この世のものでない異界の住人の役が多いですね(笑)」映画『Vision』

夏木マリインタビュー(2)「この世のものでない異界の住人の役が多いですね(笑)」映画『Vision』 04061803.jpg

奈良を拠点に作品を撮り続け、海外でも評価の高い河瀬直美監督の映画に初めて出演した夏木マリさん。美しい森を舞台にした壮大な命の物語『Vision』のエピソードを伺ううち、話はマリさんの舞台活動に広がりました。

前の記事「夏木マリさんインタビュー(1)「映画『Vision』の撮影中、吉野の森で2週間おかゆだけで生活しました」」はこちら。

 

自然の中に還るようなアキさんの名シーン

――映画『Vision』で夏木さんが演じているアキさんは、千年の歴史がある奈良・吉野の森で千年を生きている女性。自然と共存し、風を読み、鋭い感覚をもつ神秘的な存在です。そんなアキさんが山深い森の中に消えていくシーンが感動的でした。人が森に還っていくようで、まさに自然の循環の一部のように描いています。

夏木 吉野の山で生きるアキさんは山を信仰の対象にしているから、彼女にとっては"死"という観念さえも、役目を終えて山に帰れること。歓びなんです。だから、彼女が踊る場面も、山に帰れる歓びの舞なんですよ。

 

――吉野の森を舞台に人々の人生が交錯する本作ですが、森に生きる夏木さんや山守の智役の永瀬正敏さん、そしてフランスから吉野にやってきたエッセイスト・ジャンヌ役の女優ジュリエット・ビノシュさんの存在感が圧倒的でした。現場では共演者の方とお話されたりしたんですか?

夏木 河監督の現場は、私語厳禁なんです。例えば、劇中で亡くなる役を演じる場合、亡くなるシーンを撮影した後は、カメラが回っていない時でも、共演者の方々と会ってはいけない。そのぐらい徹底しているんです。それぞれの人が、役の人物として実際に生活していますから。その暮らしの一部が映画に映っているという感じなんですね。だから、一般的な撮影現場だと、朝は「おはようございます」のあいさつで始まって、夜は「お疲れ様です」で帰りますが、そういう挨拶をするタイミングのない現場なんです。

 

――ジュリエット・ビノシュさんは世界的に活躍するフランスの女優さんです。初めてご一緒されて、いかがでしたか?

夏木 すごくフレキシブル(対応能力のある)な人だと思いました。日本の山奥にやってきて、それだけでも環境が変わって大変だと思うのですが、食生活も皆と一緒にお米を食べて、吉野の森の生活をちゃんと送っていて、素敵だなと思いました。

夏木マリインタビュー(2)「この世のものでない異界の住人の役が多いですね(笑)」映画『Vision』 04061809.jpg左から永瀬正敏さん、河瀨直美監督、ジュリエット・ビノシュさん

 

この世のものではない役柄が多い!?


――アキさんが森の変化を察知して「千年に一度の時が来る」と言う場面がかっこよかったです。夏木さんは『千と千尋の神隠し』(01)の湯婆婆(ゆばーば)役など異界の存在の役柄も多い気がします。

夏木 この世のものでない役、多いですね(笑)。だから、3月に公開された映画『生きる街』(18)は普通のお母さん役で、すごくうれしかったです。

 

――ご自身で制作・演出されている舞台「印象派」シリーズなど、アート方面でも活躍されるマリさんだから、異界の役にも説得力が出るのだと思うのですが。

夏木 いえいえ、難しかったですよ、アキさんは。「印象派」を始めたのは93年ですが、それ以降は印象派が私の活動の中心になっています。その中でタイミングが合えば、今回みたいに映画をやらせて頂いたりして。

 

――「印象派」は、どういうきっかけで始められたのですか。

夏木 私は80年代以降、舞台に出ていることが多いのですが、「印象派」を始める前は、声をかけていただくまま、いろいろな舞台をやっていたんです。そうしたら、演劇というものが好きなのか嫌いなのか、自分でもわからなくなってきてしまって。それなら思い切って、自分ひとりでやってみようと「印象派」を始めたのが93年なんです。

 

――だから、「印象派」は最初、マリさんおひとりの舞台だったんですね。

夏木 そうですね。「印象派」というのは、絵画の印象派のモネやマネたちが8回サロンをやったというところから、お名前を頂いたんです。部屋の中で絵を描いていた時代に、イーゼルを持って外に出た反骨精神がいいなと思って。なので、8回目の公演を終えてからは、東京現代美術館で「イン・トランジット」という公演を1回やって、今は「印象派NEO」としてチームでやっています。チームになったことで、以前より演出に力を注げるようになってきました。

 

――昨年、2017年の3月には、3年ぶりの新作を上演されましたね。「不思議の国の白雪姫」と題して、「不思議の国のアリス」と「白雪姫」をモチーフにした独自の世界を描かれています。今後のご予定は?

夏木 また来年、新作を上演します。ぜひ観に来ていただきたいですね。

夏木マリインタビュー(2)「この世のものでない異界の住人の役が多いですね(笑)」映画『Vision』 04061802.jpg自身の体ひとつで舞台に立ち、「印象派」シリーズを切り拓いてきた夏木マリさん。
スクリーンの中で存在するだけで絵になります

 
<『Vision』あらすじ>
エッセイストのジャンヌ(ジュリエット・ビノシュ)は、人類のあらゆる苦痛を取り去る「Vision」という薬草を探して吉野の森へやってくる。そこで彼女は様々な人と出会う...。

 

取材・文:多賀谷浩子

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夏木マリ(なつき・まり)さん

1952年5月2日生まれ、東京都出身。歌手、俳優・演出家として活躍。近作に、映画『生きる街』、『犬ヶ島』(18年)、舞台『印象派NEO』(Paris公演)など。One of LoveプロジェクトGIG 10YEARS WITH「途上国の子供達に未来の仕事を贈るプロジェクト」を6月16日(土)にマイナビBLITZ赤坂にて開催。
©︎HIRO KIMURA

Vision

6月8日(金)全国ロードショー

監督・脚本:河瀨直美 

出演:ジュリエット・ビノシュ 永瀬正敏 岩田剛典 美波 森山未來 田中泯(特別出演)・夏木マリ 他 

配給:LDH PICTURES 

©2018 "Vision" LDH JAPAN, SLOT MACHINE, KUMIE INC.

公式サイト『Vision』

 

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