中高年の人の短歌作りが盛んですが、若い人の短歌作りも広がっています。大学短歌会の活動も活発ですし、中高生の短歌大会も多くの投稿があります。
今回は宮崎県日向(ひゅうが)市で八月に行われた「牧水・短歌甲子園」に出された高校生の作品を紹介してみましょう。作品予選を通過した全国十二チームの題詠の作品の一部です。まずは、「海」の題詠からです。
アボカドの種をくり抜く
その海を愛するように
スプーンの舟
金沢錦丘高等学校 山本菜々香
実際の海ではなくて、種をくり抜いたあとのアボカドの状態を「海」と言い表し、食べるためのスプーンを「舟」と歌っているのが新鮮で面白いですね。
海を割るモーセのように
人ごみの中を進んだ
君の隣に
延岡学園尚学館高等部 白瀬倖史
人ごみの中で「君」のもとに近づいていく自分を「モーセ」に例えたところがいいですね。力強い恋ごころの歩みです。
次は「屋上」の題詠です。
鳥はいつ
自分が飛べると知るのだろう
屋上に踏み込むときの風
福岡女学院高等学校 神野優菜
雛鳥の巣立ちを想像しながら自分の一歩を考えている歌です。屋上から羽ばたこうとする姿が颯爽としていますね。
「愛してる」
言える勇気もないくせに
屋上に君を呼んでしまった
横浜翠嵐高等学校 佐藤翔斗
これはストレートな歌い方が魅力の一首です。「屋上」の題詠ですが、恋の歌ですね。
最後に「恋」の題詠から紹介します。
完璧なシミュレーションは
できてても
リアルな恋は手も足も出ぬ
富島高等学校 福永百奈美
「リアル」は苦手、といういまの高校生らしい作でしょうか。
<Column>
伊藤先生に教わる、はじめての人の「歌始め入門」
8月号で紹介した、俵万智さんの『短歌をよむ』(岩波新書)の中に「人生上の大きなできごとは、人に歌を詠ませる」、「一方で、日常の中のまことに小さな感動からも、歌は生まれる。私はこれは、短歌の特徴であると同時に、大変な強みではないかと思う」という一節があります。その通りだと思います。岩田正さんの歌が『歌壇』8月号に載っていました。「鳩の横すりぬけて雀餌あさる小禽らにみる共存のさま」はありふれた光景です。その光景を「いい共存をしているなあ」と感じたところにできた歌です。日常の光景をしっかり観察しましょう。
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伊藤一彦(いとう・かずひこ)先生
1943年、宮崎県生まれ。歌人。読売文学賞選考委員。歌誌『心の花』の選者。