酒井宏樹「僕がハノーファーで学んだこと。結局、ラクな選択肢に成長はない」/リセットする力

酒井宏樹「僕がハノーファーで学んだこと。結局、ラクな選択肢に成長はない」/リセットする力 24051811.jpgフランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、サッカーワールドカップロシア大会での活躍が期待されるサッカー選手、酒井宏樹。しかし彼は「弱気」で「人見知り」という性格の持ち主だった...。
サッカー選手に不向きなその性格をいかにして克服してきたのか? 本書『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』で、その具体的な方法を探っていきましょう。

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苦境は信頼できる仲間を見つけるチャンス

チームの結果が出ない時期が続くと、選手としては非常に苦しいものです。ドイツのハノーファーでは連敗もありました。結果が出なければメディアからは叩かれ、サポーターからの風当たりも強くなり、チーム内の雰囲気も悪くなって、ときには選手同士の関係に亀裂が生じる場合もあります。それでまた次の週の試合に負ければ、チーム状況もチームを取り巻く雰囲気もますます悪化していく。特に残留争いをしているときは、そんな状況がずっと続いたので、メンタル的には厳しい時期でした。

しかし、苦しいときこそ人間は本質が問われると思います。
ハノーファーは、2001―02シーズンにブンデスリーガ2部で優勝して、翌シーズンに1部へ昇格しました。一時はUEFAヨーロッパリーグというヨーロッパ各国の上位チームのみが出場権を与えられる国際大会に出場した時期もありましたが、僕のハノーファー3、4年目は残留争いに巻き込まれていきます。

もちろん選手は結果を出そうと必死に取り組んでいますが、なかなか結果がついてこない。そういうときは選手もナーバスになっているので、些細(さい)なことで人間関係が崩れやすい。だからこそ、コミュニケーションには気を遣い、普段以上に他の選手と話す機会を設けるように心掛けました。

「もし降格したら、10年以上にわたって1部にいたこのクラブの歴史が崩れてしまう。自分たちの時代で降格させるわけにはいかない」
当時の僕は、この必死な思いだけでシーズンを戦っていたように思います。

チーム状態が苦しいからこそ、本当に信頼できる人をチームのなかに見つけることができました。試合中では、仲間を助けるためにパスを受けに来てくれる人もいれば、味方のサポートは一切せずに自分勝手に動く人もいます。ピッチの外では、「チームを救うために仲間と一緒に戦う」という気持ちを持って、少しでもチームの調子が上向きになるためになんとかしようと思っている人もいれば、反対に「この人はこうやって簡単にチームを見捨てることができるのか」と驚くくらい、すぐに投げ出す人もいました。


結局、ラクな選択肢に成長はない

誰だって苦しい経験はしたくありません。僕も二度と残留争いは経験したくないのが本音。しかし、苦しい状況から目を背け、そこから逃げてしまう人は、次に同じシチュエーションが来たときも、また目を背けて逃げてしまうと思うのです。

苦しい状況に直面しないに越したことはありませんが、その状況になってしまったのなら、その経験さえも貴重なことだと捉えて逃げずに突き進むことで、新しい道が見えるようになると僕は信じています。また、自分がラクな選択肢を選んでばかりいれば、それ以上の成長は見込めないでしょう。

同じ残留争いでも、「苦しいから嫌だ」「やりたくない」と現状から逃げ出すような気持ちのまま過ごすのか、それとも「いまは苦しいけど、この経験を活かして、もう二度と同じ状況をつくらない」と自分自身を鼓舞しながら、苦しい時期を過ごすのかでは大きな違いがあります。

苦しいときこそ人の本質が表れ、そのときにどのような振る舞いができるかを、周囲の人は必ず見ています。たとえすぐに結果として出なくても、苦しい状況に立ち向かった経験は、自分の道を切り開いてくれるはずです。もし僕がハノーファー時代に「苦しいから」という理由で投げ出していたら、マルセイユへの移籍はなかったかもしれません。

 

次の記事「酒井宏樹「自己主張の強くない僕が、自分の意思を相手に伝える方法」/リセットする力(16)」は近日公開。

撮影/千葉 格

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酒井 宏樹(さかい ひろき)

1990年4月12日、長野県生まれ。千葉県柏市で育つ。柏レイソルU-15、U-18を経て2009年にトップチームへ昇格。2010年にJリーグデビュー。2011年にはチームの主力として活躍し、チームのJ1優勝とともに、ベストイレブン、ベストヤングプレーヤー賞を受賞。同年10月にはA代表に初選出される。日本での活躍が評価され2012年にドイツ・ブンデスリーガのハノーファー96へ完全移籍。主力として活躍した後、2016年6月にフランスの名門オリンピック・マルセイユへ完全移籍。マルセイユ移籍後も確固たる地位を築き、不動の右サイドバックとして活躍。日本代表でも欠かせない存在として、2018年ロシア・ワールドカップでの活躍が期待されている。

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『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』

(酒井 宏樹/KADOKAWA)

「日本人は活躍できない」という前評判を覆し、フランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、世界の注目を集めるサッカー選手となった酒井宏樹。彼はいかにして「自信のなさ」と「メンタルの弱さ」を克服し、心を強くしていったのか。自然と心が強くなる具体的な方法をこれまでのエピソードをとおして初公開!

 
この記事は書籍『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46」』からの抜粋です。
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