フランスの名門マルセイユで不動の地位を確立したサッカー選手、酒井宏樹。しかし彼は「弱気」で「人見知り」という性格の持ち主だった...。
サッカー選手に不向きなその性格をいかにして克服してきたのか? 本書『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』で、その具体的な方法を探っていきましょう。
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時間の価値を再認識する
僕は家族と過ごすかけがえのない時間が大好きです。そのため、普段は家族と一緒で、1人になるのは試合前の前泊や遠征のときだけです。
試合前日の1人の時間は何をしているかというと、勉強をしています。主にフランス語の宿題です。宿題をやらないと、試合で良い結果が出ないという僕のジンクスがあり、必ず宿題を持ち込んで、クラブハウスや宿泊先で少しでもいいからやるようにしています。勉強をして「よし、これで良い結果が出る」と思えるおまじないのような意味合いも含んでいるので、自動的に勉強をする習慣が身につくようになりました。
また、フランス語の他には、自分が知らないことで興味のある分野の勉強をしています。いまなら経済学。単純に経済学とはどういうものなんだろうという疑問を解決したかったのと、いままでインフレ、デフレの説明すらできなかったのですが、そういう教養を知らないままでいいのかなという心境の変化みたいなものがありました。
そのきっかけは、将来サッカー選手を終えたときに何も知らない人間だったら嫌だなと思い始めたからです。きっと娘も、そんな父親は嫌だろうから、勉強の時間を設けて、いろいろな知識を吸収していく時間をつくろうと思いました。
もしかしたら、娘が大きくなったときに「あれってなんで○○○なの?」と聞かれたら、ちゃんと答えられる父親になりたいのかもしれません。いまでは、勉強をしたり、サッカー選手のキャリアを終えたあとに何をしたらいいかなどを考えたりする、1人の時間は結構好きです。時間は本当に貴重で、1日24時間のうち、サッカーをする時間、サッカーの準備をする時間、睡眠時間は絶対に必要な時間ですし、そこに練習に向かう時間と帰宅時間を含めると、自分の時間というのは意外と少なくなってしまうものです。
お金で時間を買うという発想
チームの練習時間は1時間から長くても2時間程度ですが、僕は通常の全体練習が終わると1人でグラウンドをゆっくりジョギングし、その後は体のバランスを整えるトレーニングをしてからストレッチをしています。グラウンドでの練習を終えたあとはクラブハウスでサウナと水風呂に入る交代浴をして、シャワーを浴びて汗を流し、今度は治療とマッサージで体のケアに努める。だからチーム内で最後に帰宅するのは、いつも僕かディミトリなのです。午前中の練習でも帰宅は夕方になります。
ただ、時々イレギュラーが発生することも。先日も「この時間にマッサージをしてもらおう」と考えていたタイミングで、先にディミトリのマッサージが始まってしまいました。普段の流れでは、僕は最後にマッサージをしてもらい、クラブハウスで食事をしてから帰るのですが、ディミトリのマッサージが終わるのを持っていると帰宅が30分程度遅くなると思いました。僕は時間を有効に使えるように「今日は何時に帰る」と終了時間を決めて、自分で時間を計算しながら行動しています。だからイレギュラーなことが発生したときは待つという無駄な時間をつくるのではなく、先に食事をして、マッサージをあとに回す、など順番を入れ替えて合理的にやりくりできるよう意識しているのです。
練習場から帰宅するときも、高速道路を使えば一般道路で帰るより10分程度ですが時間を短縮できるため、2ユーロを払って高速道路を使い、少しでも時間をつくるようにしています。ほんの10分でも、これを1年間続けたら約60時間になります。2ユーロというお金も、1年で考えたら相当な額に達しますが、それでも僕は時間をつくるほうを選択しています。
そうやって工夫をして生み出した時間を、自宅での勉強や大好きな家族との時間に充(あ)てて有効に使う。
いまの僕にとって最大の贅沢は何もしない時間です。シーズン中は、そんな時間は絶対につくることができません。できるとすればシーズンオフに日本に帰国したときぐらいです。1日のなかでのオンオフではなく、1年という長いスパンでのオンオフを考える。それがストレスを溜めずにストイックになれるコツかもしれません。
撮影/千葉 格
酒井 宏樹(さかい ひろき)
1990年4月12日、長野県生まれ。千葉県柏市で育つ。柏レイソルU-15、U-18を経て2009年にトップチームへ昇格。2010年にJリーグデビュー。2011年にはチームの主力として活躍し、チームのJ1優勝とともに、ベストイレブン、ベストヤングプレーヤー賞を受賞。同年10月にはA代表に初選出される。日本での活躍が評価され2012年にドイツ・ブンデスリーガのハノーファー96へ完全移籍。主力として活躍した後、2016年6月にフランスの名門オリンピック・マルセイユへ完全移籍。マルセイユ移籍後も確固たる地位を築き、不動の右サイドバックとして活躍。日本代表でも欠かせない存在として、2018年ロシア・ワールドカップでの活躍が期待されている。
『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』
(酒井 宏樹/KADOKAWA)
「日本人は活躍できない」という前評判を覆し、フランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、世界の注目を集めるサッカー選手となった酒井宏樹。彼はいかにして「自信のなさ」と「メンタルの弱さ」を克服し、心を強くしていったのか。自然と心が強くなる具体的な方法をこれまでのエピソードをとおして初公開!