空海を主人公に、壮大なイマジネーションで描かれた『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』。2004年に出版されたこの小説が、日中共同制作の映画になりました。唐(とう)の都・長安(ちょうあん)を舞台に壮麗な映像美で描かれるのは、空海や白楽天(はくらくてん)、玄宗皇帝(げんそうこうてい)や楊貴妃(ようきひ)が登場するミステリータッチの謎解きエンターテイメント。原作者の夢枕獏さんにお話を伺いました。
『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』は全4巻に及ぶ壮大な物語。映画化されると聞いて、夢枕さんはどう思われたのでしょう。まずは、そこから伺ってみました。
メガホンをとるのは、
中国の名匠チェン・カイコー
―映画化のお話をお聞きになって、いかがでしたか?
夢枕 どうするんだろうと。お金もかかるだろうし、中国の役者さんもたくさん必要だし。でも、チェン・カイコー監督が撮るんだということで、これはすごいことになるかなと思いました。
―チェン・カイコーは世界的に評価されている中国の監督です。
夢枕 彼の『さらば、わが愛/覇王別姫(はおうべっき)』という映画が好きなんです。映像美やストーリーはもちろん、2人の子どもたちが成長して一人前の京劇役者になっていく、その背景にある時代がよく描かれていた。時代の抱える名前の付けられない混とんとしたものが、混沌としたまま描かれていて感心しました。
映画の空海は、
染谷将太さんが演じています
―混沌としたものを、あるがまま受け止める。まさに、この物語の空海を思わせます。映画では染谷将太さんが演じています。
夢枕 色っぽいですよね。スキンヘッドというのは怖くなるか色っぽくなるか、微妙な狭間にあるヘアスタイルだと思うのですが(笑)。染谷さんの空海としての在り方は、程がいいのです。
ーとおっしゃいますと?
夢枕 原作は日本人向けに書いた小説ですから、中国人キャストの活躍の場は少ないわけです。そこを映画は、非常に上手に空海と詩人の白楽天の友情物語にしている。その中で「俺は空海だ!」とどんどん前に出ていってしまってはダメでしょう。中国の監督が中国の観客に向けて撮る映画の中で、空海の在り方が絶妙の間合いを維持している。
―全てを見通しているような空海のスマイルが印象的です。
夢枕 「俺は何でもできるんだ!」という感じではないけれど、ひ弱でもない。白楽天と適当な冗談を言ったり、そういう同等な感覚も出ています。染谷さんは落ち着いていて、風のような身のこなしをしますね。
次の記事「「空海は日本初の"世界人"だと思います」/映画『空海』公開記念! 夢枕獏さんに聞く、空海の底知れぬ魅力(2)」はこちら。
取材・文/多賀谷浩子
1951年、小田原生まれ。東海大学卒業。『上弦の月を喰べる獅子』で第10回日本SF大賞、『神々の山嶺』で第11回柴田錬三郎賞、『大江戸釣客伝』で第39回泉鏡花文学賞、第5回舟橋聖一文学賞、第46回吉川英治文学賞を受賞。『キマイラ』シリーズ、『陰陽師』『獅子の門』『大帝の剣』など著書多数。
『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』
2月24日(土)全国東宝系にて公開
監督:チェン・カイコー
出演:染谷将太、ホアン・シュアン、チャン・ロンロン、火野正平、松坂慶子、阿部寛ほか
声の出演:高橋一生、吉田羊、東出昌大、イッセー尾形
©2017 New Classics Media,Kadokawa Corporation,Emperor Motion Pictures,Shengkai Film
配給:東宝・KADOKAWA