作家・五木寛之さん インタビュー(2)「咀嚼も誤嚥も転倒も、自分で研究すれば面白い」

1804p025_01.jpgロマンスグレーの波打つ髪にツイードのジャケット。おしゃれで、メタボなんて言葉とは無縁のスタイルを保っている作家の五木寛之さん。
「80歳過ぎまでは歯医者以外は病院のお世話にならず、"自分の面倒は自分で見る"という考えでやってきました。いま、85歳。左脚が痛むので病院に行ったら、変形性股関節症と診断されました。原因は加齢のようです」。
笑顔でそうおっしゃいますが、実は五木さん、若いころから片頭痛など数々の持病があり、50歳ぐらいまでは体調不良に悩まされてきたのだとか。まず、その持病を克服した健康法について伺ってみました。

前の記事「作家・五木寛之さん インタビュー(1)「40歳になる前にタバコを、60代前半に車の運転をやめました」」はこちら。

 

呼吸、転倒、誤嚥...。自分で研究すれば面白い

体調が悪く、49歳で2回目の休筆宣言をしたとき、龍谷(りゅうこく)大学の聴講生となって仏教史を学んだ五木さん。

それは、「人生の後半生には内面が必要」と考えてのことだったと言います。そしていまも、咀嚼(そしゃく)、誤嚥(ごえん)、転倒など、毎年、新たなテーマを決めて勉強をしているのだとか。

「自分で実験をして検証をしなければならないので、面白いですよ。お金がかからない趣味ですね(笑)。例えば、咀嚼。いまでは人の顔を見ていると、どちらの歯で多く噛(か)んでいるか、分かります。均等に噛まないと、顔がゆがんでくるからです。

誤嚥と転倒は、肺炎や寝たきりの原因となるため、高齢者にとっては予防したい二大テーマ。自分でも左脚が痛むようになってからは、転倒には常に注意を払うようになりました。なぜなら、無意識が事故を招くからです。

よく、ギックリ腰予防には、『これから重い物を持ち上げるぞ』と脳に指令を出し、意識をしてから腰を落として持ち上げれば大丈夫だといわれます。誤嚥と転倒も同じで、『これから水を飲むぞ』『階段を下りるぞ』と指令を出し、しっかり意識してから行うことが、いちばんの予防になると思います。そしていま、筋肉より大切だと注目されているのが、骨。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)予防には、骨に衝撃を与えることが大切で、力士が踏む四股がとてもいいそうです。

そう言われると、すぐに実践する人や、逆にこの年齢ではできないと頭ごなしに否定する人がいますが、健康法も時期相応。60代と80代では、違ってきて当然です。考え方を固定せず、自分の変化に合わせて続けていくのがいいんです」

 
いまこそ、一人ひとりが自由な「デラシネ」だと自覚すべき時代

あらゆるものは、世の中の動きに合わせて、生まれてくるもの。「親鸞(しんらん)にしても、比叡山にいたときと、29歳で山を下りたとき、越後に行ったとき、関東に行ったときでは、全く考え方が違う。変わっていく、揺れていくから、人生は面白い」と五木さんは言います。

では、これまで経験したことのない人生100年時代を、私たちはいま、どう生きていけばいいのでしょうか。

「考えておかなければいけないのは、この先は国や社会に頼れない世の中になるかもしれない、ということです。いま、中東からの移民・難民がヨーロッパ諸国に押し寄せて大きな国際問題になっています。イギリスはEUから離脱し、スウェーデンとフランスは徴兵制度を復活させるという。多くの国が保守化し、ナショナリズムが勃興している。

僕は日本が太平洋戦争に負けたとき、現在の北朝鮮の首都、平壌(ピョンヤン)に住んでいました。敗戦が明らかになった夜、父親が教師をしていた師範学校の生徒たちが、突然、人民保安隊と称して拳銃を持って現れ、ソ連が侵攻してからは無法地帯です。政府高官や日本軍の幹部はさっさと内地へ帰還し、置き去りにされた日本人は難民になった。蟻の大群のように山を越えて野を歩き、河を渡って祖国を目指した。いま、世界で起こっていることも、同じです。

国家に頼ることなどできない。そうした思いから、僕は60年代の後半から「デラシネ(漂流者)」をテーマに小説に書き、話もしてきました。ところが最近は、いまこそが『デラシネの時代』だと感じるようになりました」

フランス語で「根こぎにされた」の意味をもつデラシネ。そこから発想を膨らませた五木さんは、「故郷や祖国から切り離された人、漂流者」としてこの言葉を使ってきました。

「祖国にいながら、国の保護を受けられない人もデラシネです。僕は、ソ連が崩壊したときにモスクワに行きましたが、機能しているのは闇市だけ。年金などは全て止まり、高齢者は為す術もない状態でした。日本はまだ、国や社会保障が機能していますが、やがて年金が崩壊したり、戦争に巻き込まれるかもしれない。

『まさか!』ということが起こるいまのような時代には、国家や社会に依存するのではなく、一人ひとりが自由なデラシネ(漂流者)だと自覚して、自分の生き方を自分で探し、自分の健康は自分で守る。生き抜くための最大の財産は、健康なんですから。その覚悟が、本当の意味での個の確立につながるんです」

 

人生の後半生は「個」と「理想」を確立する

そのためには、当然、孤独であることが必要だと五木さん。

「孤独というと独りを連想しますが、僕が考える孤独は、『和して同ぜず』。集団の中にいて和を保ちながら、自分をしっかり持っていること。例えるなら、自分のパートを歌いながら、みんなとハーモニーを奏でる合唱のイメージです。一方、集団にいるのを嫌い、隠遁生活を送るのが、孤立。高齢になると孤立する人が多いので、できるだけ集団の中に出かけていく。そして、『和』と『個』の複眼的視点を持って、社会と関わっていく方が心と体の健康にもいいですね。人類がこれまで経験したことのない人生100年時代を迎えても、寝たきりではしかたがない。健康に留意し、寿命が延びた分は、自分の理想に近づくべく楽しめばいいんです」。

可能な限り現役で仕事をしながら、「死ぬときは一人で」が理想だという五木さん。

「人間は一人で生まれてくるのですから、死ぬときも一人旅です。野生動物のように、最後は群れを離れて死ぬ姿を見せないのが生き物の理想のような気がします。周りの人に迷惑をかけないように書類などの準備をし、『そろそろですから』と声を掛け、"逝く鳥後を濁さず"で旅立てないものか。死の心構えや死の作法についてはまだ何も確立されていないので、自分らしいスタイルを研究していくのも、これからの楽しみの一つかなと思っています」。

 

取材・文/丸山佳子 撮影/奥西淳二 イラスト/坂木浩子

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五木寛之(いつき・ひろゆき)さん

1932年、福岡県生まれ。生後間もなく朝鮮半島に渡り、47年に引き揚げる。52年、早稲田大学第一文学部露文科入学。57年に中退後、PR誌編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、66年に『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年に『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、76年に『青春の門』(筑豊篇 他)で吉川英治文学賞を受賞。2010年に『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。『蓮如』『大河の一滴』『林住期』『下山の思想』などベストセラー多数。近著に『孤独のすすめ』『健康という病』『デラシネの時代』などがある。

最新刊と、作詩作曲を手掛けたCDが出ました!

『デラシネの時代 』

800円+税(角川新書)
戦争の世紀と呼ばれ、自由と平等を求めてきた20世紀から、難民が溢れ、ナショナリズムが勃興する21世紀へ。「大きな変革期に生きる私たちにいま必要なのは、自らを『デラシネ(漂流者)』と自覚することではないか」という五木流の生き方の原点にして、集大成的一冊。

『東京タワー 』

800円+税(角川新書)

歌/ミッツ・マングローブ 1,204円+税(日本コロムビア)
五木さんが作詩作曲を手がけたノスタルジックな昭和歌謡。1979年に、女優の松坂慶子さんが歌って大ヒットした五木さん作詞の「愛の水中花」を彷彿とさせる一曲です。3月まで、NHKラジオ深夜便の「深夜便のうた」となっていますが、聞き逃した人は、ぜひご試聴を。

この記事は『毎日が発見』2018年4月号に掲載の情報です。

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