お家に眠る骨董品。さて、そのお値段はーー!?
テレビの開運バラエティ番組を思い出す、骨董品の真贋をめぐるコメディ映画が公開されています。その名も『嘘八百』。
映画の冒頭、カーラジオから、こんな占いが聞こえてきます。
「双子座のあなたは西の方角に行くといい。名前に西が付く人と会うのもいいでしょう」
ホント!?と思うような、いい加減な占いにまかせ、西の方角へぎゅっとハンドルを切るのが主人公のひとり、小池(中井貴一)。この風まかせ感、この映画の気楽さを象徴するようです。
そのうち到着したのは大阪・堺。たまたま大きくて立派な蔵に遭遇した彼は、家主らしき男・野田(佐々木蔵之介)に蔵の中を見せてほしいとお願いします。
実は、小池は古美術商。お店の名前は「古美術・獺(かわうそ)」。なんだかあやしげです。
ところが、野田は見ず知らずの小池を疑うことなく、気さくにOK。早速、小池が蔵を物色すると、そこにはなんと千利休の大変なお宝が!!
蔵の中の小池(左)と野田
しかし小池、とんだ悪タヌキです。
野田にそのことを告げずに「ここにあるのは贋作ばかりですね。全部まとめて100万でお預かりしましょう」と、しらーっと切り出す。それに対し、野田は「ええんですか?!」とこれまた二つ返事。
ちょっとちょっと野田さん、騙されてますよーと観客が思った矢先、有頂天の小池は気づくのです。まとめて預かった古物の中に、あのお宝が入っていないことに!!騙されたように見せて、実は野田の方が一枚上手だったのです。
こうして小池と野田の騙し合いが始まるーー!?
実はこの映画、なんとこのふたりが手を組むことになります。ふたりを上回る悪タヌキの古美術商と大御所鑑定士が登場し、大きな賭けに出るのです。
真贋の程が窺いにくい骨董をめぐる一世一代の騙し合い。そこには親子の情も絡めば、夫婦の情も絡んで来る。さて、最後に笑うのは一体誰なのかーー。
大御所鑑定士を演じるのは近藤正臣(右)。この映画、脇役陣も面白い
大ヒットコミックや人気小説の映画化など、原作ものが映画化されがちな昨今、この映画は珍しくゼロから作られたオリジナル作品。堺を舞台にした映画を考えていたところから企画が始まったそうで、それだけに千利休の茶器が物語の重要なモチーフになっています。
実は中井貴一と佐々木蔵之介は、2017年に公開された『花戦さ』でも、ほとんど絡みはないものの、大事なシーンで共演しています。こちらも千利休が重要な役割を果たす物語(利休役は佐藤浩市)。なんだか不思議なご縁を感じます。
そんなふたりには、それぞれ俳優らしい見せ場が用意されています。陶芸家の野田の見せ場は、渾身の陶芸シーン。ある茶器を作る場面を、土の味見をするところから焼きあがるまでトータルで見せるのです。それも立派な窯ではなく、お家の庭先で。カジュアル陶芸とでもいうべき、この作り方。面白いです。
それを横からちょこちょこ手伝う中井貴一の相棒感もコミカル。そんな小池の見せ場はクライマックスの口上。ふたりの一世一代の計画が、吉と出るか凶と出るかの大事な場面。小池の語りひとつにすべてが懸かっている見せ場で彼が切り出した「嘘八百」とはーー?
お正月映画らしく、最後は気持ちのいい風が吹きます。それにしても、見ず知らずのあやしげな古美術商が訪ねてきた時、気軽に受け入れた野田はオープン。途中いろいろな思いをしますが、最後は彼にちょっとした素敵なサプライズがもたらされます。
年をとるごとに新たなものを受け入れがたくなるもの。外から入ってくるものに柔軟でいたいなと気づかされる、年はじめの1本です。
文/多賀谷浩子