この厳しい時代を生きぬくため、時には怒(いか)ることも必要です。しかし、感情を暴走させるような怒りは、人間関係をめちゃくちゃにしてしまいます。
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怒ってもいいけど怒り方が問題
怒ってもいいのです。でもその怒りの回数があまりにも多いと、自分の体にもよくないし、周りにも悪い影響を与えます。
怒りの強さも問題です。そして長い時間怒り続けないことです。回数と、強さと、時間。これが上手に行われれば、怒りはけして悪いものではありません。
この前怒ったばかりだなと思ったときは、今回はちょっと爆発させるのを抑える必要があります。怒ったら、いつまでも長く怒らないことです。あまりにも強い怒りを爆発させると、その人の人間性にもクエスチョンマークが付いてしまいます。
指導死で自殺してしまった中学生の怒られ方は、尋常ではありませんでした。何度も怒られています。担任と副担任、両方から怒られています。他の子どもが聞いて「怖かった」と言っています。二人の教師の怒りの回数と強さが、教育から逸脱していたと思います。
怒る人のことを想像してごらん
病的に怒る上司や教師や医師やパートナー、その人自身が未成熟である可能性が高いです。俯瞰的に物事を見られないから、怒りを爆発させるのです。怒る人のことを想像してみるのも大事です。偉そうにしているけど、実際はたいしたことがない場合が多いのです。適当にやり過ごすのがいいのです。
怒りを爆発させないための6秒ルール
アンガーマネジメントには、いくつかのテクニックがあります。一つ目のテクニックは、「6秒ルール」とぼくは呼んでいます。怒りに関係するのは、注意力や集中力を増すノルアドレナリンという脳内神経伝達物質。ノルアドレナリンが出過ぎると、キレたりします。
このようにならないためには、売り言葉に買い言葉をしないことです。
怒りを感じたときに6秒我慢すると、怒りのホルモン、ノルアドレナリンが下がりますから、怒りを爆発させずに、相手に注意を与えるような言い方ができるのです。
「一服」「一晩」テクニック
二つ目のテクニックは、「一服」です。少しイライラして危ないなと思ったら、「お茶にしようか」とお茶を入れること。一服が、イライラやキレるのを防いでくれるのです。
三つ目のテクニックは、「一晩寝て待て」。どうしても許せないと思ったときには、「明日怒りを爆発させよう」と思って、とりあえず今日は寝るのです。睡眠は、記憶に関係し
ています。脳は寝ている間に何を記憶して何を忘れるか、仕分け作業をしているのです。睡眠は感情の整理もしてくれる大事な時間です。
「6秒」、「一服」、「一晩」。この三つの掟を意識して、安っぽく怒らずに、一年に一度か二度、怒るべきときは怒りながら、普段は上手に怒りを抑えることが、自分の体の健康にも、怒られる側の体の健康にも、一緒に働く仲間の健康にもいいのです。怒りが連発される家庭では、家族の健康に赤信号がともります。
1948 年生まれ。医師、作家、東京医科歯科大学臨床教授。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。近著に『遊行(ゆぎょう)を生きる』(清流出版)、『人間の値打ち』(集英社新書)、『カマタノコトバ』(悟空出版)、『「わがまま」のつながり方』(中央法規)。