現在、公開中の『探偵はBARにいる3』。シリーズ1作目が公開されたのは、2011年。どこか1970~80年代に上映された東映系ハードボイルド映画の「匂い」を感じさせ、大人の映画ファンの心をくすぐりました。
"遊戯"シリーズやドラマ『探偵物語』など、その時代のハードボイルドものに数多く出演していたのが松田優作。『探偵はBARにいる』シリーズの相棒・高田役に松田龍平がキャスティングされたところにも、こうした映画好きに向けた粋な計らいを感じます。
BAR"ケラー・オオハタ"にいる主人公の二人
札幌の繁華街ススキノのBAR"ケラー・オオハタ"を拠点にする「探偵」と、その相棒・高田が活躍する本シリーズ。といえば、大泉洋演じる探偵が思い浮かぶ方も多いと思いますが、欠かせないのが高田の存在。今回は、恋人が失踪して困っている後輩の依頼を受けたり、アクションの腕を秘かに磨いたり、これまでに見せなかった頼もしい一面も披露しています。
シリーズをご覧になったことがない方のためにお書きすると、高田の本職は北海道大学農学部の助手。眼鏡をかけた無口な理系男子でありながら、喧嘩を始めると意外なほど強い。このギャップがポイント。そして、なぜか探偵のピンチには、今にも壊れそうな愛車・高田号(初代ビュート)で必ず遅れて登場する......限りなくオフビートな存在なのです。大泉洋演じる探偵のヌケ感といい、古沢良太の脚本は、単なる二枚目が受けない現代に受け容れられる、ヒーローのさじ加減が絶妙だなと改めて思わされます。
普段は"省エネ"モードなのに、アクションになるとキレキレの高田
さて、今回の3作目。東映系ハードボイルドの匂いを感じさせた1~2作目に比べると、登場するキャラクターはそのままに、大きく舵を切った感があります。
まずは脚本。ヒロインのフィーチャ―の仕方といい、これまでの「匂い」がだいぶ消え、世代性別広くエンターテイメントになった感が。そして、大きな変化として挙げられるのが、監督が変わったこと。NHKの『サラリーマンNEO』シリーズや連続テレビ小説『あまちゃん』、映画『疾風ロンド』などを手掛けた吉田照幸監督が手掛けたせいもあってか、笑いのテンポにさらなる冴えが感じられます。
また、他にも監督の色が出ているのが、クライマックスのアクション・シーン。ハイスピード・カメラを使った映像は今や映画やCMで決して珍しくありませんが、今回はハイスピードを使いつつ、さらに一技加えていて、遊びの効いた映像になっています。長回しで撮った印象的な見せ場。リリー・フランキーの悪役も効いています。
裏社会の住人・北城役のリリー・フランキー
1970~80年代のハードボイルド映画が懐かしい世代としては、前2作にも思い入れがあります。3作目からご覧になった方は、前2作と比べて観ても面白いのではないでしょうか。このシリーズ、主人公二人の周りの登場人物にも、こうしたハードボイルドものに"あるある"な遊びが。今回もなかなか心くすぐられます。
文/多賀谷浩子