「50代になったら、"好きなもの"を大切にしたほうがいい」~「傘寿まり子」作者おざわゆきさんインタビュー(3)

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主人公は80歳のおばあちゃん。家出をしてネットカフェに寝泊まりし、猫を飼い始め、恋をし、新しい友人を作り...おばあちゃんの青春マンガ『傘寿まり子』がいま、話題です。作者のおざわゆきさんにお話を伺いました。

現在コミックス「傘寿まり子」を「毎日が発見ネット」にて連載中。バックナンバーはこちら。

 


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スポーツでも読書でも、アイドルでもいい。好きなものがある、ということが大切です

――ストーリーの最初で「まだ生きててごめんなさい」と言っていたまり子さんですが、その後「弱者の自分を乗りこなせ」と思い、さらに忘れていた昔の自分を思い出して「おかえり、まり子」と、どんどん気持ちが変化していきます。80歳にしてなお、いろいろなことに向き合っていける彼女の強さは、どういうところにあるのでしょう。

おざわ 『傘寿まり子』では、新しいおばあちゃん像を描きたいと思っているんです。まり子さんは自分の気持ちに正直ですよね。やりたいと思ったこと、守りたいと思ったもの、そういう自分のひらめきを離さず、ちゃんと表現できる人なんだと思います。

「50代になったら、"好きなもの"を大切にしたほうがいい」~「傘寿まり子」作者おざわゆきさんインタビュー(3) 8.jpgまり子は自分を弱者と認めたうえで、その立場を乗りこなそうとする

 

「50代になったら、"好きなもの"を大切にしたほうがいい」~「傘寿まり子」作者おざわゆきさんインタビュー(3) 6.jpg「50代になったら、"好きなもの"を大切にしたほうがいい」~「傘寿まり子」作者おざわゆきさんインタビュー(3) 7.jpg小説を書くことに情熱を燃やしていたころの自分が、今も心の中にいることを確認するまり子

――ご自身はどんな80歳になりたいと思っていますか?

おざわ まり子さんみたいになれると一番いいです(笑)。まり子さんの中身のベースは私なので、こういう感じでいられると理想かな。仕事しながら、たまには彼氏作ったり、友達もいて、新しいものに興味を持って。

私を含め50代って、老けることをすごく嫌だなって思う時期なんです。如実に顔や体に出てくるから、それと戦っている人、けっこう多いと思います。白髪を出すのも、いつ決断したらいいのかって本気で考えて、私って60代になってもこの頭なのかなって。体のフォルムも変わってきますし、"老ける"というのをまともに受け入れなければならないのが、50~65歳くらいまでだと思います。でも、おばあちゃんだから弱々しく隅を歩いていなければならないというのではなく、高齢者がいても違和感がない世の中になってほしいです。

4巻以降の展開で、まり子さんがスナックでアルバイトをするんです。スナックで接客をして、そこでも普通にかわいいと言われて、隔たりなく接してもらえるんです。そういう間口がどんどん広がっていくかなって、希望的観測で描いています。

 

――まり子さんのようになるには、50代から何をしたらいいでしょう。

おざわ 定年をして余生を送るというのが今までの老後だったけれど、余生がなくなって地続きになっているというのが今の老後の印象です。

今、元気な50代の人は、これから先は、好きなものがあることが大事だと思います。私は着物を着るのが好きで、着物まわりのものを見たりするのも好き。スポーツでもいいですし、絵を描いたり本を読んだり、テレビを見ててもアイドルにはまっててもいい。好きになったことを否定しないで、ずっと続けていると、最終的にもしかしたらすごい支えになるかもしれない。何かを好きでいる自分を、年を取ったからって捨てなくていいと思うんです。その延長に人との関わりや救いを見つけられるかもしれないですから。

あとは、少しずつでも全身を動かした方がいいと思います。私は毎日、ラジオ体操とストレッチをすごくまじめにやっています。ラジオ体操も毎日やろうと思うと、意外と続けるのが大変なんです。わざわざやると続かないので、コーヒーを淹れながら、電子レンジが止まるのを待つ間など、少しずつやっています。パソコンの立ち上げに時間がかかるときに、美顔器を置いたりもしますよ。小さなことも積み重ねですよね。

 

――まり子さんの彼氏は、まり子さんの仕事を応援してくれて、穏やかでお金持ちで、女性から見てすごく理想的な人ですよね。50代の男性は、今後どのように生きていくと思いますか。

おざわ 人によりますが、男性は一般的に、社会的に生きることがアイデンティティになっている人が多いように思います。社会的な役割を終えたときに、次にどう生きるのかが課題になる。全く違う社会に入って、どうしようと戸惑ってしまう人が多い。

でも、仕事相手を対人間として受け入れることができていたなら、それを次の社会でも活かして、他者や、変わっていく状況を受け入れてほしい。できる範囲で"受け入れる"ということを選択肢に持てたら、その後、生きやすくなっていくかもしれないと思います。

インタビュー・文/岸上佳緒里

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おざわゆき
愛知県生まれ。代表作に、父親のシベリア抑留体験をもとにした『新装版 凍りの掌 シベリア抑留記』(講談社)、母親の空襲体験をもとにした『あとかたの街』(講談社)など。現在、「BE・LOVE」(講談社)にて『傘寿まり子』を連載中。

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「傘寿まり子」(1)
(おざわゆき/講談社)

ベテラン作家の幸田まり子は自分の家で息子夫婦、孫夫婦との間で住居問題が勃発。老人の自分には居場所がないことを感じ一人家出を決意。街中のネットカフェで暮らし始めるが...? 四世代住む我が家で居場所を失ったまり子が、80歳で家出をするというロードムービー的コミック!
 

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