ある日、頭や背中、わき腹などの、体の左右どちらかの皮膚にピリピリした痛みを感じた後、赤い班や小水疱(水ぶくれ)が出てきた...急にそんな症状が出現したら戸惑うものです。実は、これが帯状疱疹(たいじょうほうしん)の典型的な症状。加齢や過労、病気、旅行に出かけて疲れがたまった時などに、子どもの頃にかかった水ぼうそうのウイルスが再び活動し始めて起きる病気です。帯状疱疹の特徴や治療法、後遺症、他の病気との見分け方などについて、宇野皮膚科医院院長の漆畑先生にお話を聞きました。
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できるだけ早く受診して疱疹後神経痛が残らないようにしましょう
帯状疱疹では、体に痛みや疱疹がはっきり現れた段階で、初めて皮膚科を受診する人が多いようです。もし帯状疱疹かもしれないと思ったら、できるだけ早く皮膚科に行くのがカギ。できれば前駆痛を感じたタイミングで、遅くとも疱疹が出てから72時間以内に受診するのが望ましいのです。
前駆痛を腰痛や肩こりだと誤解して整形外科を受診し続け、結果的に帯状疱疹の治療が遅れてしまうことがよくあります。体の片側だけに痛みがある場合は、帯状疱疹を疑ってみることが大事です。
帯状疱疹の治療の目的は3つあります。
1 初期の痛みをできるだけ取り除き、生活に支障がないようにする。
2 疱疹のある皮膚に痕が残らないように素早く治す。
3 後遺症である疱疹後神経痛を防ぐ。
この中でも特に、初期の段階からしっかり治療をして、疱疹後神経痛が残らないようにすることが重視されています。
病院で帯状疱疹と診断されるとすぐに、「抗ウイルス薬」と「鎮痛薬(消炎鎮痛薬か解熱鎮痛薬)」が処方されます。これが帯状疱疹の治療の柱となります。
抗ウイルス薬は、体内でのウイルスの増殖を抑え、細胞の破壊を防ぎます。抗ウイルス薬はとにかく、一刻も早く飲むことです。病院で受診後、処方箋が出たらその足で薬局に行き、帰宅してからではなく、その場で水をもらって、すぐ1回目を飲むようにします。薬を飲むのが早ければ早いほど、痛みや皮膚の症状は軽く済みます。また、毎日必ず指示通りに飲み続けることも必要です。
もう1つの治療薬である鎮痛薬は、痛みを和らげる効果があります。また、鎮痛薬の中の消炎鎮痛薬は神経や皮膚の炎症を抑え疱疹後神経痛に移行するのを抑える効果もあります。
痛みが強い場合は上記2つの薬に加えて、「ステロイド薬」「三環系抗うつ薬(アミノトリプチン)」「プレガバリン(リリカ)」などを使う場合もあります。神経細胞の修復を促す「ビタミンB12」や「ノイロトロピン」、患部の皮膚に塗る軟膏も処方されます。
「急性期は、できれば2~3日に一度の通院で、症状に合わせたきめ細やかな治療をしてもらいましょう。薬を飲んでもすぐに効果が現れないことがあります。しかし、自己判断で"効果が出ないから、効いていない"と服用をやめてしまうのは禁物です。必ず医師の指示に従って薬を全部、飲み切りましょう。飲み切ることが痛みを完全に止め、つらい後遺症である『疱疹後神経痛』を防ぐことにもつながるのです」と漆畑先生。
高齢の患者の中には、すでに降圧剤やコレステロールの薬など複数の薬を飲んでいるため、飲み薬が増えるのを嫌がって、処方された帯状疱疹の薬を飲まない人もいるようです。しかし、疱疹後神経痛になっては大変ですから、必ず指示通り飲み切ることが大切です。
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取材・文/松澤ゆかり
漆畑 修(うるしばた・おさむ)先生
東邦大学医学部卒業後、東邦大学医学部大橋病院皮膚科部長、東邦大学医学部客員教授などを経て2007年に宇野皮膚科医院(東京都世田谷区北沢)院長に就任。医学博士、皮膚科専門医、抗加齢(アンチエイジング)医学専門医、温泉療法医、サプリメントアドバイザー。著書に『痛みを残さない帯状疱疹 再発させない単純ヘルペス』(メディカルトリビューン)、『帯状疱疹と単純ヘルペスの診療』(メディカルレビュー社)などがある。