気温の上昇とともに流行が広がり、夏にピークを迎える腸管出血性大腸菌。2016年には、老人福祉施設において、きゅうりのゆかり和えが原因の集団感染が発生し、大きな事件となりました。今夏も、6月時点で感染者が週50人以上となっています。同月には、群馬県の高齢者施設で、腸管出血性大腸菌O157に感染した90歳代の女性が死亡しました。
腸管出血性大腸菌は、本来、牛などの動物の腸管に生息する菌で、食品や水、動物との接触などにより人へと感染し、食中毒などを引き起こします。感染すると、下痢や血便のほか、嘔吐や発熱などの症状を伴うことも。抵抗力の弱い高齢者や乳幼児の場合、溶血性尿毒症症候群(HUS)や急性脳症などの合併症をきたすことが知られており、死に至ることもあります。
溶血性尿毒症症候群とは、腎臓や脳などを侵す病気で、赤血球の破壊による貧血、出血を防ぐ細胞である血小板の減少、急性腎不全などを起こし、入院治療を要します。貧血が強い場合は輸血が、急性腎不全ならば人工透析が施されます。症状が回復して退院しても腎臓の障害が残ることがあり、定期的な診断が必要になります。
腸管出血性大腸菌の主な感染経路は、食品や水分を口にする経口感染。予防法を、国立感染症研究所感染症疫学センターの齊藤剛仁さんに伺いました。 「菌は75℃で1分間加熱すると死滅するため、食事はしっかり加熱しましょう。小まめな手洗いはもちろん、介護の際は使い捨て手袋を利用するなど、衛生管理が大切です。家族が感染した場合は、トイレのドアノブを消毒する、患者が湯舟に浸かる場合は最後にするか、シャワーで済ませるなど、感染を拡大させない対策が必要です」。
重篤な症状を引き起こす恐れのある菌だけに、感染しない、させないことを心がけましょう。
【腸管出血性大腸菌の予防には】
・食材は75℃で1分間加熱します。
・肉の生食は避けましょう。特に子供や高齢者は注意が必要です。
・焼き肉を食べる際は、生肉を取る箸と食べる箸を使い分けましょう。
・手や調理器具は丁寧に洗いましょう。
・井戸水は煮沸してから飲みましょう。
・調理した食品はなるべく早めに食べましょう。
・調理の前、トイレの後、おむつ替えの後は特に気を付けて手を洗いましょう。
・家族と同居の感染者は、できるだけ浴槽につからずシャワーやかけ湯を使います。また、お風呂を使う場合は、他の人と一緒の入浴は避け、できるだけ最後に使いましょう。特に感染者が使った後のお風呂に乳幼児は入浴させないように注意しましょう。
齊藤剛仁(さいとう・たけひと)先生
国立国立感染症研究所 感染症疫学センター主任研究官。国内における感染症の発症状況について、日夜勤しむ。