血圧の話はよく話題に上りますが、意外と知らないことがたくさんあります。測定の方法や薬の飲み方など、実は病院ではなかなか聞けなかったことを、東京女子医科大学高血圧・内分泌内科主任教授で、日本高血圧学会理事の市原敦弘先生に教えてもらいました。
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血圧の測定を習慣づける工夫はありますか?
枕元に血圧計をセットして起床時に測ったり、朝食前に食卓で測るなど、自分がいちばんゆっくりと測れる場所を決めて、そこに血圧計を置きましょう。家族に声をかけてもらうのもいいですね。忘れても自分を責めたり、続かないと諦めたりせず、また測定を始めればいいのです。
薬を処方されていますが、飲まなきゃダメですか?
高血圧は治す時代になりました。つまり、薬を飲まなくてもいい状態になることを目標に治療することが可能なのです。薬を減らしたい、種類を替えたい、血圧が安定したら薬を飲むのをやめたい...と医師に相談することは何ら問題はありません。
主治医を納得させるように毎日の血圧を記録して、治療の成果が上がっていることを示せば、薬を飲まなくても大丈夫という判断をしてくれるはずです。薬を替えたい場合は、副作用の状態や、替えたい理由をしっかり伝えましょう。
高血圧が治ったと言える目安はどのくらいですか?
現在の治療指針にある治療目標は、病院での診療室血圧の場合、
〇若年・中年・前期高齢者(65~74歳)...140/90㎜Hg未満
〇後期高齢者...150/90㎜Hg未満(特に異常が生じなければ140/90㎜Hg未満)
〇糖尿病・腎障害( 蛋白尿陽性)がある人...130/80㎜Hg未満
〇脳血管障害・冠動脈疾患のある人...140/90㎜Hg未満
に血圧を下げることが勧められています。
病院で測るよりも低めで安定することの多い家庭血圧の目標値は、前出の診療室血圧の目標値からそれぞれ5㎜Hg引いた値です。数値が安定しても生活習慣によって再び乱れてしまうことがあるので、血圧の管理を怠らないようにしましょう。
血圧変動と認知症発症リスクが関係するのはホントですか?
血圧変動が大きいと認知症の発症リスクに関係することが、日本人を対象とした研究で明らかになり、2017年8月の米医学誌『Circulation』で発表されました。この研究は、認知症ではない60歳以上の男女1674人(平均年齢71歳、女性55.9%)に5年間、自宅で血圧を毎朝3回測定してもらい、調査した結果によるもの。経過観察中に194人(男性72人、女性122人)が認知症を発症、うち47人が血管性認知症、134人がアルツハイマー型認知症でした。
毎朝測定した血圧の数値を、血圧が135㎜Hg以上と未満、血圧の変動が大きいグループと小さいグループに分類し、認知症の発症との関連性を分析した結果、血圧変動が大きいことが認知症リスクと関係していることが分かりました。
また、アルツハイマー型認知症の発症リスクは、血圧の値に関係なく、日々の血圧変動が大きいことが関係し、血管性認知症の場合は、血圧変動が大きい、または血圧の数値が高いことが関係していることが明らかになりました。
血圧変動と認知症の発症リスクの関係について調べたものは今回が初めて。血圧を安定させることが、認知症予防に有効であるという可能性が示されたのです。
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取材・文/宇山恵子
市原敦弘(いちはら・あつひろ)先生
東京女子医科大学高血圧・内分泌内科主任教授。日本高血圧学会理事。慶應義塾大学医学部卒。ホルモン異常や腎機能など高血圧の根本原因を突き止め治療する専門家として年間5000人以上を診る。