血圧はさまざまな要因で上昇・下降しますが、これが急激過ぎたり、乱高下したりする場合は要注意。血管にダメージを与え、体にトラブルが起こる「乱れ血圧」かもしれません。
ひと口に「乱れ血圧」といっても、年齢によってその原因は少し異なります。覚えておきたい2つの要因を、東京女子医科大学高血圧・内分泌内科主任教授で、日本高血圧学会理事の市原敦弘先生が解説してくれました。
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50、60代は血管の内壁を健康に!
女性の場合は閉経期になると、女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少します。エストロゲンは動脈硬化の原因となる血中の悪玉コレステロールの増加を抑え、同時に動脈硬化を防ぐ善玉コレステロールを増加させる働きがあると考えられています。そのため、閉経後の女性は高血圧への注意が必要です。
血管の内膜を覆う内皮細胞には、血管を拡張させる一酸化窒素(NO)を作り出して血圧を下げる働きがあります(下のイラスト参照)。一酸化窒素は血管を広げて血圧を安定させ、血液が凝固せず流れやすい状態に保ちます。また、血管に異物が付着して血栓ができるのを防いだり、異物が血管の内側に侵入したりするのを防ぐ働きがあります。健康な内皮細胞は血圧を調整する大事な役割を担っているのです。他にも中膜の平滑筋細胞(へいかつきんさいぼう)が不必要に増殖しないようにしたり、活性酸素によるダメージを抑制したりする働きがあり、血管の健康維持に必要です。
加齢とともに内皮細胞が一酸化窒素を作り出す機能は低下します。喫煙、運動不足、肥満、酸化ストレス、脂質異常、高血糖、高血圧なども一酸化窒素の産生を低下させ、血管の老化を進行させてしまいます。つまり、高血圧が血管を老化させ、血管が老化すると高血圧が悪化するという悪循環に陥ってしまうのです。
以上のように、内皮細胞は乱れた生活習慣や加齢の影響を受けやすいのですが、全身の血の巡りを良くすれば、内皮細胞が再活性化されてくることが期待できます。
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取材・文/宇山恵子 イラスト/松元まり子
市原敦弘(いちはら・あつひろ)先生
東京女子医科大学高血圧・内分泌内科主任教授。日本高血圧学会理事。慶應義塾大学医学部卒。ホルモン異常や腎機能など高血圧の根本原因を突き止め治療する専門家として年間5000人以上を診る。