若いころは、夜はぐっすり眠って翌朝さわやかに目覚めていたという人も、年齢を重ねるにつれて、次第に寝つきが悪くなっていくようです。睡眠不足の状態が続くと、認知症や生活習慣病などの病気を引き起こす恐れもあります。まずは自分の睡眠が足りているかどうか確認してみましょう。
前の記事「眠れないのは加齢のせい!? "眠りの質"をチェックしてみましょう/ぐっすり眠れる方法(1)」はこちら。
質の良い睡眠をとるとすっきり目覚められる
厚生労働省が実施した睡眠についての調査によると、60歳代の女性で睡眠時間が6時間未満の人は、4割以上にのぼるそうです。また、50歳代以上のどの年代でも、この1カ月で眠れなかったことが「頻繁にある」「ときどきある」が男女ともに半数以上を占めていました。
睡眠は深さによって2種類に分けられます。一つは「レム睡眠」で、体は休んでいるけれども脳は活動している「浅い眠り」です。もう一つは「ノンレム睡眠」。体も脳も休息している「熟睡」の状態をいいます。2つの睡眠は、下の図のように、約1時間半周期で交互に現れます。
「ノンレム睡眠」の中でも、とくに深い睡眠を「深睡眠」といいます。「深睡眠は脳がしっかりと休んでいる状態。眠り始めて最初の4時間のうちに、深睡眠を2回取ることが理想です。そうすれば疲労の8割が解消されます」と白濱先生は話します。
レム睡眠とノンレム睡眠は周期的に現れる。深部体温は睡眠中は低く、目覚める少し前に上昇する。
深部体温や自律神経も睡眠と密接に関係
睡眠は体の内部の体温「深部体温」と関連しています。上の図のように深部体温は夜、次第に下降します。それにつれて眠気が訪れ、深部体温が上昇し始めると目覚めるのです。
また睡眠は、自律神経とも密接に関係しています。昼間の活動中は交感神経が優位です。夜、副交感神経が優位になると、リラックスして眠気を感じます。
深部体温や自律神経のリズムが崩れると、睡眠不足の原因となります。認知症や生活習慣病などの病気になる恐れもあるのです。
睡眠不足になると・・・こんな病気のリスクが!
◎インシュリンの分泌不足→糖尿病
すい臓からのインシュリンの分泌は、深睡眠のときに活発になります。睡眠不足で深睡眠が十分にとれない状態では、インシュリンの分泌量が減ってしまうのです。血液中のブドウ糖は分解されずに残り、高血糖状態が引き起こされます。それが長期間続いた場合、糖尿病を発症することがあります。
◎脳血管の詰りや破れ→脳卒中
私たちが日中、活動しているとき交感神経の働きで血圧が高くなり、睡眠中は副交感神経の働きで血圧が低くなります。睡眠が不足していると、夜も交感神経が優位のままで、血圧が高い状態が続きます。そのせいで脳の血管がもろくなり、詰まったり破れやすくなって脳卒中を招いてしまいます。
◎有害物質が脳に沈着→認知症
アルツハイマー型認知症は、「アミロイドベータ」というたんぱく質が脳に溜まり、脳の神経細胞を破壊することが原因で起こります。アミロイドベータは深睡眠の間に排出されるため、睡眠不足になると排出されず、脳内に残ってしまいます。認知症の発症リスクが高まるのです。
いま話題の"睡眠負債"って何?
最近、「睡眠負債」という言葉が、テレビや雑誌などでよく取り上げられています。
「負債」とは借金のことですが、「睡眠負債」は睡眠不足が毎日少しずつ、借金のように蓄積されていくことをいいます。疲労が溜まって、知らず知らずのうちに生活の質が低下し、体にさまざまな不調が現れるのです。
睡眠負債の状態になると、「なんとなく家事が進まない」と感じたり、倦怠感や頭痛、集中力低下などを招きます。上記のような病気の原因にもなってしまうのです。
下のコツを参考にして、睡眠負債の解消を心がけましょう。
[睡眠負債を解消するコツ]
・寝だめするのではなく、数日に分けて少しずつ解消する
・生活リズムの乱れはその週のうちに調整する
・夜更かしせずに眠れるときは寝る
・眠気を感じたら13時ごろに15分仮眠する
・仮眠前にコーヒーを飲み、カフェインの効果で寝過ぎを防ぐ
取材・文/松澤ゆかり、山川寿美恵
次の記事「あなたの姿勢はどれ? 睡眠の質を左右する寝相の秘密/ぐっすり眠れる方法(3)」はこちら。
白濱龍太郎(しらはま・りゅうたろう)先生
睡眠、呼吸器内科、在宅医療専門クリニック「RESM新横浜」院長。筑波大学医学群医学類卒業。東京医科歯科大学大学院統合呼吸器病学修了。2013年から現職。メディア出演、著書など「睡眠」の分野で注目されている医師。著書に『誰でも簡単にぐっすり眠れるようになる方法』(アスコム)などがある。