「早期診断」「最新治療」がいくら普及しても、乳がんの罹患率と死亡率は一向に下がることなく増え続けています。 「その理由は欧米化した食生活だといわれています。ならば食生活やライフスタイルを見直すことによって、がんの罹患率も死亡率もこれから減らしていきましょう」という乳腺専門医の南雲吉則先生からのメッセージです。
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がん予防には
糖質控えめの食事と有酸素運動が効果的
ここまでの話で、がん、特に乳がんの発生の仕組みが大まかながら分かっていただけたと思います。どのように防ぐことができるかも少しわかってきたのではないでしょうか。乳がんを予防するには、定期検診と自己検診。そして、閉経後は肥満に気をつけなくてはいけないと分かっていただけたと思います。過度なストレスも避けるべき、つまり暮らし方も見直してみるべきです。そこで次に、がん予防の最大のポイントでもある食生活について考えていきましょう。
私たちの体は食べたものでできています。「肥満を防ぐためには、肉や脂質をとらないほうがいい」と言われますが、そんな必要はありません。肉に含まれるタンパク質は筋肉にしかなりませんし、摂取した脂肪がすべて体脂肪になるわけではないからです。
脂肪は糖質をとらない限り、脂肪細胞の中に取り込まれるチャンネルが開かず、エネルギーとして使われます。では、何が問題かと言えば、"糖"がカギになります。糖質は燃焼効率が悪くて重いですから、糖質をたくさんとると、体を軽くするために脂肪に転換されます。だから糖質をとりすぎると太ってしまうのです。
最大の問題は、糖は実は、血管の中でコラーゲンというタンパク質と結びつき、そこで頑固な"コゲ"を作ってしまいます。これが動脈硬化を招き、脳卒中や高血圧の原因につながります。また、糖のもう一つの問題として、糖によってのみ成長する細胞があるのです。それががん細胞です。 がんの早期発見のために行われるPET検査は、がんが糖を取り込む性質を利用して、検査前にブドウ糖を静脈注射してから画像診断をします。すると、がん細胞だけが赤く染まり、正常な細胞はほとんど染まりません。
がんは糖以外の栄養は利用できませんから、人が精製した糖質を摂取すると成長し、逆に低糖質の食事をすると成長できなくなります。"白物(しろもの)"と呼ばれる精製した糖質には白米、パン、麺、糖と小麦粉で作った菓子、ポテトがあります。これらの摂取量を減らせば、がんの成長を遅らせることができるということです。
一方、がんが嫌いなものもあります。それが酸素です。がん細胞は活性酸素を無毒化する酵素を持っていませんので、酸素によって成長が遅れることがわかっています。どうやって体内に酸素を取り込むか。答えは、有酸素運動ですね。誰もが気軽にできる運動は"歩くこと"なので、車で移動する習慣の人も、歩くことを心がけてほしいと思います。
高ポリフェノールの作用で
がんを遠ざける
がんを遠ざけるために、"白物"を避けることと並んで大事なことは、抗酸化物質。効果的なのが、野菜や果物の皮に含まれるポリフェノールです。りんごは皮をむいてしまうと酸化して茶色くなりますが、皮つきのままだと皮がバリアとなって酸化しません。これが抗酸化作用と呼ばれるものです。
ポリフェノールには、多少傷つけられても元通りになる創傷治癒作用や、細菌が入るのを防ぐ抗菌作用などもあり、すべてが体にいい上に、がんの予防に役立ちます。果物を食べるときに皮をむいて食べる人が多いですが、それではポリフェノールの効果がなくなってしまいます。それに、皮をむいた果物はただの糖質の塊となり、がんの"エサ"になってしまいます。りんごに限らず、梨、柿、みかんも皮ごと食べることで、ポリフェノール効果が得られます。私がお薦めしている「ごぼう茶」もまた、ポリフェノール効果が高いものです。
糖質を制限したら注意したいこと
それがタンパク質とオイル
糖質を制限すると体内のタンパク質が糖に分解され、筋肉が落ちやすくなるため、糖質を制限するときは、筋肉の材料となるタンパク質と良質の油をとることに気をつけなければなりません。そして、体によい油を選ぶことが重要になります。私がお薦めするのは、オメガ3です。
グリーンランドなどに住むイヌイットと呼ばれる民族は糖尿病や心筋梗塞になる人がほとんどなく、がん患者も非常に少ないというデータがあります。彼らは野菜をほとんど食べなくて、アザラシの肉を食べる習慣があります。このアザラシの肉に含まれているのがオメガ3のオイル。「オメガ3は魚に含まれる」とよく言われますが、もともとは魚が食べている藻の中に含まれていた栄養素です。つまり、植物にたくさん含まれているということです。
脂肪には大きく分けて飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2つがあります。飽和脂肪酸は牛肉や豚肉、乳製品など動物性の脂肪に多く含まれ、不飽和脂肪酸に分類されるのがオメガ3、オメガ6と呼ばれるオイルです。がんを遠ざける生活習慣として、オメガ3のオイルの使い方をこのあと紹介します。今後ぜひ取り入れてください。
取材・文/大石久恵
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南雲吉則(なぐも・よしのり)先生
1955年東京都生まれ。乳腺専門医、医学博士。東京慈恵会医科大学を卒業後、東京女子医科大学形成外科、癌研究会附属病院外科、東京慈恵会医科大学第一外科乳腺外来医長を経て、'90年に乳房専門のナグモクリニックを開業して総院長に。「バストの美容、健康、機能」をトータルケアする医療を実践している。著書に『大還暦〜60歳から本気で若返る100の方法』など。