南雲吉則先生の「乳がん予防」(3)乳がんはどうすれば予防できるか?

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「早期診断」「最新治療」がいくら普及しても、乳がんの罹患率と死亡率は一向に下がることなく増え続けています。 「その理由は欧米化した食生活だといわれています。ならば食生活やライフスタイルを見直すことによって、がんの罹患率も死亡率もこれから減らしていきましょう」という乳腺専門医の南雲吉則先生からのメッセージです。

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定期検診+自己検診が基本。
異変に気づいたらいつでもすぐに受診すること

無症状のうちに乳がん検診を受けた人は早期に発見される可能性が高いため、年に1回の定期検診が薦められています。私もお薦めしています。しかし、「毎年検診していたのに進行がんになってしまった」というケースもあります。なぜ、定期検診を早期発見につなげることができないのでしょうか。 その理由は、前回「異常なし」と言われたので、症状があっても受診しない人が少なくないからでしょう。でも、それは過信です。検診の数カ月後、あるいはすぐ後であっても、"かすかな痛み"や"引きつる感じ"などの違和感に気づいたら、次の検診を待たずに早めに受診することがとても重要です。

そのためにも自分の乳房の状態をチェックする"自己検診"を私はお薦めしています。その方法として、毎日お風呂に入ったときに、手のひらで全身をなで洗いしてください。 私たちの手のひらは非常に敏感なセンサーなので、毎日自分の体に触れていると、わずかな変化もキャッチすることができます。それに、タオルなどでゴシゴシとこするのは皮膚の脂分の取りすぎとなり、肌の老化につながりますから。

今年9月に乳がんを公表した、現在闘病中のタレントの北斗晶さんも、年1回の検診を毎年欠かさず受けていました。前回の検診から1年たたずして乳がんが見つかり、「乳房の形の小さな変化に気づいて受診したところ、思いがけず乳がんと診断され、右乳房全摘出の手術を受けることになった」と告白しています。 そして、ブログを通じて多くの女性たちに「毎年検診をしていても、1年で進行し、乳房を全摘出しなければならないほど大きくなってしまうがんもあるんだということを知ってください」、「自分の体の小さな異変を見逃さないで」と訴えています。

  

乳がん発生のプロセスは

閉経前と閉経後で異なります

乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが関わっているため、閉経前と閉経後では発生のプロセスが異なります。 そもそも、乳管という"母乳を乳首まで運ぶ管"の中にできたポリープが乳がんのもとです。 生理が周期的に来る閉経前は、エストロゲンの働きによって、生理のたびに乳管の粘膜が細胞分裂します。細胞分裂が限界に達したとき、がんができることは説明しました。昔の女性は早婚で多産だったため、妊娠と授乳を繰り返し、しょっちゅう生理が止まっていたおかげで、乳管の粘膜の細胞分裂が少なく、乳がんが発生しませんでした。さらに栄養状態もよくなかったため、初潮が遅くて閉経が早く、生涯の生理の期間が今よりも短かったわけです。

しかし、現代は未婚、晩婚、少子化の時代です。妊娠や授乳によって生理がストップする期間も短い。規則的な生理を何十年間と繰り返す間に、乳がんが発生しやすくなったのです。これが閉経前の乳がんが増えた理由です。 この状況はすぐには変わらないでしょうから、なで洗いによる自己検診を徹底する必要があります。それが実現すれば、乳がんの早期発見も可能になるでしょう。

では、女性ホルモンの分泌が低下する閉経後に乳がんになるのはなぜでしょうか。ここに乳がんが増えたもう一つの理由があります。 閉経後は卵巣からのエストロゲンの分泌がなくなりますが、その代わり、副腎からアンドロゲンというホルモンが分泌されます。アンドロゲンは男性ホルモンなので、本来は乳がんの"エサ"にはなりません。 ところが女性の体内には、乳房を維持するために、脂肪細胞にあるアロマターゼという転換酵素の働きによって、男性ホルモンであるアンドロゲンを女性ホルモンであるエストロゲンに転換させるのです。しかも、性ホルモンの材料は血中のコレステロールですので、閉経後の肥満者の数が5倍ならば、乳がんのリスクが5倍になるのです。

  

ストレスも
閉経後の乳がんのリスク因子です

さらに、もう一つ。ストレスも、閉経後の乳がん発生に影響を与えています。通常は性ホルモンであるエストロゲンの量は多すぎず、少なすぎず、一定に保たれるようにコントロールされています。しかし、敵(ストレス)に襲われた瞬間、男性ホルモンの量が少ないと戦うことができません。そのため、私たちの体は副腎に男性ホルモンのアンドロゲンをためておき、いざというときに大放出する仕組みがあるのです。

アンドロゲンは別名「とうそうホルモン」と呼ばれて、敵から「逃走」するときや、敵と「闘争」するときに分泌されます。つまり過度のストレスにさらされると、アンドロゲンの量がどんどん増えてしまい、前述した仕組みによって、エストロゲンに転換されてしまうため、乳がん発生のリスクが高まってしまうのです。 夫婦の不和や、家族の闘病、介護などで苦難の日々が続いた人が、一段落したある日突然、「胸のしこりに気づいた」というケースも少なくありません。ストレスとがんは、それだけ密接な関係があるのです。

取材・文/大石久恵

  

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<教えてくれた人>
南雲吉則(なぐも・よしのり)先生
1955年東京都生まれ。乳腺専門医、医学博士。東京慈恵会医科大学を卒業後、東京女子医科大学形成外科、癌研究会附属病院外科、東京慈恵会医科大学第一外科乳腺外来医長を経て、'90年に乳房専門のナグモクリニックを開業して総院長に。「バストの美容、健康、機能」をトータルケアする医療を実践している。著書に『大還暦〜60歳から本気で若返る100の方法』など。
この記事は『毎日が発見』2015年12月号に掲載の情報です。
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