南雲吉則先生の「乳がん予防」(2)がんはどのようにして発生するのか?

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「早期診断」「最新治療」がいくら普及しても、乳がんの罹患率と死亡率は一向に下がることなく増え続けています。 「その理由は欧米化した食生活だといわれています。ならば食生活やライフスタイルを見直すことによって、がんの罹患率も死亡率もこれから減らしていきましょう」という乳腺専門医の南雲吉則先生からのメッセージです。

前の記事:「南雲吉則先生の「乳がん予防」①乳がんの罹患率、死亡率は30年前の3倍!」はこちら。


がんが悪いのではない。
がんを発生させるほど体に無理を強いるからです

人はなぜ、がんになるのでしょうか。すでに指摘されているように、がんの発生は私たちの生活習慣と密接に関わっています。

私たちの体は"管"でできていて、例えば口から肛門までの消化管、鼻から肺までの気管のほか、乳房には母乳を乳頭まで分泌させる乳管などがあります。そして、管の内側は粘膜に覆われ、体を外敵から守るバリアの役割を果たしています。つまり、管の粘膜は私たちを感染症や害毒から守るため、最前線で防衛してくれているわけです。

ところが暴飲暴食や喫煙などの不摂生をすると粘膜に炎症が起こり、赤くなったり、腫れたり、痛んだり、熱が出たりします。炎症はその原因となる不摂生を改めればじきに治まりますが、「治ったから」と、また不摂生を繰り返せば、やがて痛みを伴う潰瘍(かいよう)ができて"粘膜に孔(あな)が開きそうな状態"になってしまいます。それでも、人間には自然治癒力が備わっていて、周囲の正常な細胞が分裂し、傷口をふさいでくれます。素晴らしいでしょ? だから生活習慣が大事なのです。

ただし、この細胞分裂にも限界があります。やがて限界に達したとき、私たちの体の中で永遠に細胞分裂を繰り返す修復細胞が生まれてくるのです。 これが"がん"です。

でも、なぜ、修復細胞が私たちの命まで奪うのでしょうか? それは、不摂生により生じた粘膜の傷をふさぐために生じたがん細胞は、不摂生をやめない限り増殖し続けるからです。がんが増殖するのは、私たちの体を攻撃するためではなく、ただ、生き延びたいだけなのです。

例えて言えば、子が生まれ、孫が生まれ、大家族になったとします。居場所が狭くなったために隣の土地に建て増しをするのが"局所浸潤(しんじゅん)"、広い土地に引っ越すのが"遠隔転移"です。 がんは生き延びるために浸潤や転移をしますが、元を正せば、人間の生活習慣ががんを成長させています。逆に言えば、人間が生活習慣を改めれば、がんの増殖の勢いを止めることが可能だということです。これこそ、がんとの共存です。

  

増えたがん、減ったがん。

そこにどんな意味があるかを考えてみましょう

この50年間で死亡数が減った代表的ながんを挙げると、胃がん、肝臓がん、子宮頸がん。 減少しているがんは感染症が原因ですから(胃がんはピロリ菌、肝臓がんは肝炎ウイルス、子宮頸がんはヒトパピローマウイルス)、これは日本人を取り巻く生活環境や衛生状態が向上した結果といえるでしょう。

逆に死亡数が増えているがんは、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮体がん。

これらはホルモンの影響で成長するがんです。ホルモンの材料となるのは主にコレステロールですから、日本人の食生活が欧米型に変化し、肥満が増えたのが原因です。

また、増加率が横ばいの喉頭(こうとう)がん、肺がん、食道がんは、いずれも上半身に発生し、喫煙が原因です。

つまり、がんの原因の4分の3が感染症、たばこ、食生活であることが分かっています。感染症とたばこは減少傾向ですので、数十年後には食生活が、がんの原因の半分を占めることになると言われています。

  

喫煙を減らすことで肺がんを減らした
アメリカの英知に学びたい

さて、ここでみなさんに、アメリカの肺がんの死亡率の推移について知っていただきたいと思います。

実は100年前のアメリカには、肺がんの患者がほとんどいませんでした。1900年以降、都市部で喫煙率が上昇し、四半世紀後から急激に肺がんの死亡率が増えてきたのです。1960年代になってようやく肺がんとたばことの関連が指摘されるようになり、禁煙運動が始まりました。しかし、喫煙率が低下したにもかかわらず、肺がんの死亡率は増え続け、当初は「喫煙は無関係では」とさえ言われました。ところが、その四半世紀後から肺がんの死亡率が減り始め、現在では2分の1まで減少したのです。このまま禁煙運動が功を奏せば、肺がんを撲滅することも夢ではありません!

原因である喫煙を減らすムーブメントによって肺がんの死亡率を半減できた、これは人類の英知ですよね。

日本では現在、乳がんが女性のがんのトップです。手術、放射線治療、抗がん剤治療、ホルモン療法、分子標的薬など、さまざまな最新治療が行われているにも関わらず、罹患率も死亡率も、今や30年前の3倍です。これをどのようにして減らすか? 私は肺がんを100年前のレベルまで減らそうとしているアメリカの予防運動に学びたいと思うのです。

乳がんの原因は食事と生活習慣です。女性たちから暮らし方を見直せば、発生率を30年前と同じ3分の1に戻すことができるはず----。これが、乳腺専門医としてのこれからの私の課題です。

取材・文/大石久恵

  

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<教えてくれた人>
南雲吉則(なぐも・よしのり)先生
1955年東京都生まれ。乳腺専門医、医学博士。東京慈恵会医科大学を卒業後、東京女子医科大学形成外科、癌研究会附属病院外科、東京慈恵会医科大学第一外科乳腺外来医長を経て、'90年に乳房専門のナグモクリニックを開業して総院長に。「バストの美容、健康、機能」をトータルケアする医療を実践している。著書に『大還暦〜60歳から本気で若返る100の方法』など。
この記事は『毎日が発見』2015年12月号に掲載の情報です。

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