おなかから分泌されるホルモンが血糖値に関係
食事の前後で血糖値が大きく変化し、空腹時に正常な血糖値の人も食後には糖尿病に危険信号が点滅するほど高血糖になっている可能性があります。その原因の一つは、食事に含まれる糖の量が多過ぎることですが、最近の研究では腸内フローラが糖尿病の発症と関係していることが明らかになっています。
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「糖代謝に必須なインスリンは膵臓(すいぞう)から分泌されるホルモン。実は糖尿病は、食欲や消化に関係するさまざまなホルモン分泌のタイミングが悪くなっていることも発症の原因なのです」と言う伊藤先生は、一般向けに『なんでもホルモン』(朝日新書)という本を執筆したほどホルモン分泌に詳しいドクター。その伊藤先生は「ホルモンとは興奮を伝える物質」と言います。
「おなかがすけば『おなか減ったよ』と消化器から脳に指令を出す『グレリン』というホルモンが分泌されます。『レプチン』というホルモンは脂肪細胞から分泌され、脳の視床下部の満腹中枢に働いて食欲を抑制したり、筋肉(骨格筋)でのインスリンの働きを高めて、糖代謝を促進し、交感神経を興奮させてエネルギー消費を増やします。しかし肥満になるとレプチンの働きが悪くなり、レプチンの効果が現れにくくなるため、肥満の解消が重要です」
日本人の糖尿病患者と健康な人の腸内フローラを解析したところ、腸内細菌の総数に違いはなかったものの、糖尿病患者の腸内フローラには悪玉菌と呼ばれる腸内細菌の割合が多いことが分かりました。また、肥満や運動不足などで腸内フローラのバランスが乱れ、インスリンの働きが悪くなることも明らかに。
「血糖値のコントロールに関係するホルモンのほとんどは、胃、小腸、大腸、肝臓、膵臓などの消化器から分泌されています。そして脳を刺激して私たちの体を動かしています。脳は全身の司令塔ですが、影の司令塔として脳を動かしているのが消化器だともいえます。
消化器のコンディションを正常に保ち、正しいホルモン分泌を促すために、腸内フローラが活躍していると思われます。下に紹介するホルモンは全て血糖値をコントロールするインスリンに関係しています。血糖値が高い人は、肥満を解消し、腸内環境を整えることもお忘れなく」と伊藤先生。
腸内環境が悪い状態の場合、悪玉菌が増えて便秘を引き起こし、さまざまな毒素を作り、細胞を傷つけます。また食欲をコントロールするホルモンの分泌にも悪影響を与え、肥満、糖尿病、メタボリックシンドロームを引き起こします。
ホルモンは体内でこんな作用をしています!
ホルモンとは・・・?
100種類以上あるホルモンは細胞で作られて、血管などを移動してターゲットにした細胞を興奮させる「興奮伝達物質」です。
脾臓【インスリン】
膵臓が分泌するホルモンで、血糖値を下げる働きがあり、インスリンが減少したり働きが悪くなる(インスリン抵抗性)と高血糖になります。
小腸【インクレチン】
食事を取ると小腸から分泌されるホルモン。インスリンの分泌を促進します。脳に作用してグルカゴンの分泌を減らしたり、食欲を抑制する、胃に働きかけて胃の動きを遅らせるなどで、過剰な血糖値の上昇を防ぎます。膵臓を守り低血糖を起こしにくい糖尿病治療薬としても活躍。
胃【グレリン】
主に胃から空腹時に分泌されるホルモン。食欲増進、脂肪蓄積促進などの指令を出す他、高血糖時にはインスリンの分泌を促進します。
<腸内フローラと脳は繋がっています!>
腸内フローラとは、人間の大腸にいる500~1,000種類、100兆個もの細菌の集合体で総重量は約2㎏。花畑のような形でさまざまな病気の発症に関係。腸内細菌の代謝物は神経に働きかけて、分泌を促進します。
構成/高谷優一 取材・文/宇山恵子
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伊藤 裕(いとう・ひろし)先生
慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科教授。京都大学医学部卒。専門は高血圧、糖尿病、腎障害、抗加齢など。ホルモン分泌のメカニズムにも詳しい。最新刊(監修)は『糖尿病は先読みで防ぐ・治す』(講談社)。