"悪い油"が病気を作る! 危険物質「トランス脂肪酸」の摂取はすぐに止めよう

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60兆個といわれる体の細胞。その膜が正しく働かなくなることによって人は病気になります。細胞の膜に悪さをするのがトランス脂肪酸。アメリカでは規制によって摂取量が減少したところ、いろいろな病気が減りました。しかし、日本では含有量の表示義務すらありません。あなたの健康を守るのは、あなた自身です。今すぐ摂取を止め、正しい知識を得て食の改善を図り、細胞を強くしましょう。杏林予防医学研究所所長の山田豊文先生からの提言です。

 

油の取り方が健康を大きく左右する

── 山田先生の地道な啓蒙活動によって、「油の大切さ」と「油の危険」がようやく理解されてきました。

山田 まだ、決して満足しているわけではありません。今の時期の花粉症や、皮膚のトラブル、慢性的な鼻づまりといった症状を、体質だと決めつけている人が多くいますが、これらはアレルギー性のものが一般的です。主なアレルギー反応の一つに炎症があります。実は、炎症が不必要に増大する大きな要因の一つが、毎日食事で取る油です。

私たちの体は、60兆個ともいわれる細胞から成り、各細胞の外側や内側(さまざまな小器官)を覆う膜(生体膜)に存在する油(脂質)は、生命活動において重要なものです。
生体膜は、単に仕切りとして存在しているわけではなく、栄養素や物質の出入りをコントロールするなど、細胞が正しく機能する上で極めて重要な役割を果たしています。細胞を機能させるためには、生体膜は適度に柔らかくなくてはいけませんが、間違った油の取り方をすると生体膜を硬くしてしまうのです。それによって、私たち自身が病気を作り出しているようなものなのです。

── 体にいい油とは、どういう油なのでしょうか。

山田 生体膜の材料としては、特に「オメガ3脂肪酸(以下オメガ3)」と「オメガ6脂肪酸(以下オメガ6)」という2種類の油が、バランス良く存在していなければいけません。これらは「必須脂肪酸」と呼ばれ、体内では合成できないために毎日の食事から取る必要があります。生体膜を適度に柔らかく保つためには、オメガ3が特に欠かせません。

また、生体膜の材料となったオメガ3とオメガ6からは、相反する作用を持つホルモンのような物質が作り出され、体内の環境を一定に保っています。例えば、オメガ6由来の物質によって炎症反応が促され、熱を出させて異常事態を体に知らせます。この異常が解決すると、最後に炎症反応を収束させる働きをするのが、プロテクチンやレゾルビンという物質です。これらはいずれもオメガ3由来のもので、これら以外の物質では炎症はいつまでも収束しないというのが、最近の重要な発見なのです。

ところが現実には、オメガ3の摂取は非常に少ない上に、オメガ6の摂取過多に陥った揚げ句、がんや心臓病、糖尿病、アレルギー、そしてうつなどの精神疾患に至るまで、炎症が深く関与するさまざまな生活習慣病だらけの「メタボ社会」が拡大してしまいました。炎症は薬で抑えるのではなく、過剰に、あるいは慢性的に起こさないようにしながら、適切に収束させなければいけない。この考えは、パラダイムシフトというか、病気に関する考え方を大きく変えようとしています。 「今、世界中の医学が大きな転換期に来ている」──その一言に尽きます。

西洋医学は、緊急時の医学としては機能していても、現代病に対しては全くの無力で、どういう原因で起こっているかについては全く理解されていませんし、理解しようともしません。対症療法ばかりに終始しています。医師たちは科学に基づいて診療や治療を行ってきたかのように見えますが、そのエビデンス(科学的根拠)自体、対症療法としてのものに過ぎませんでした。そんな中、生命活動の根幹であるにもかかわらず、これまで解明されてこなかったのが、単なるエネルギー源としてではない「油」の役割だったのです。

── 油でいえばさらに問題なのが「トランス脂肪酸」でしょうか。

山田 オメガ6は取り過ぎてはいけませんが、生体膜の材料としては欠かせないものです。一方、トランス脂肪酸は、「控えるべき」というレベルのものではなく、摂取してはいけない「危険物質」なのです。世界の趨勢として、がんや糖尿病のリスクを高めるほか、脳に深刻な影響を及ぼし認知症にもつながることが報告され、絶対に体の中に入れてはいけない有害物質なのは明白です。

── アメリカでは、全廃するという報道がありました。

山田 2006年にニューヨーク市がトランス脂肪酸の飲食店での使用を規制すると、アメリカ全土に規制の動きが広がり、アメリカ人のトランス脂肪酸の血中濃度が大幅に低下するとともに、いろいろな病気が減っていきました。そこで2013年に、米国食品医薬品局(FDA)はトランス脂肪酸の食品添加を禁止する仮決定を出し、2015年6月16日にやっと、トランス脂肪酸を含む加工油脂の食品への使用を2018年6月までに全廃すると発表しました。中国、韓国、香港、台湾など東アジアの国や地域も、もう何年も前から、加工食品中の含有量表示の義務化に取り組んでいます。

── 日本での使用規制は、どのようなレベルなのでしょうか。

山田 トランス脂肪酸の使用は、「過去100年間の食品産業界最大の悪事」ともいわれ、日本でも厳しく規制されなければいけないのに、政府の食品安全委員会は何の対策も取っていません。農林水産省のホームページには、「食品事業者は、食品に含まれている油脂の加工由来のトランス脂肪酸をできるだけ減らすとともに、同時に飽和脂肪酸についても減らしていくことが望まれます」と書かれている程度です。また、日本人の一人一日当たりの平均摂取量は0・92~0・96gで、「世界保健機関(WHО)が勧告した上限量の約2g未満だから問題なし」と言わんばかりで、トランス脂肪酸の含有量の表示義務も、摂取量・含有量の基準もありません。

産業の発展とは何かと考えたとき、「効率がいいから」「便利だから」という理由で作られているものがほとんどです。消費者の健康のことなど考えていないのです。食品産業界でいうならば、腐らないとか、食感を柔らかくするなどといった食品メーカーの自己都合で使っている危険な物質を、「危険だ」と表示すらせずに店頭にことごとく並べ、それらを消費者が何も気にせず買い物カゴに入れているのは、「異常な社会」のひと言に尽きます。

── 日本でトランス脂肪酸の規制が進まないのはなぜなのでしょうか。

山田 医学において「細胞レベルで健康をとらえる」という考え方が定着していないことに尽きます。奇跡のような生命活動を営む微小な細胞ですが、生体膜の機能が損なわれることによって遺伝子が狂わされ、生体が狂わされてあらゆる現代病につながっていきます。生体膜と油の密接な関連性が解明されてきたのは最近のことです。トランス脂肪酸の規制などが先に進まないのは、医師が「正しい栄養学」を学んでいないからです。そして、生命科学の基本を分かっていないのです。細胞が生命活動の主役であるという基本が身に付いていないのです。それに尽きます。

2009年、私は当時の民主党政権の消費者担当大臣及び消費者庁の方々の前で講演する機会がありました。その際にトランス脂肪酸の規制を直訴し、「必ずやります」と約束を交わしましたが、いまだに何もされていません。政治家、役人、食品業界には、規制されると都合の悪くなる人が少なからずいるからでしょう。

トランス脂肪酸を規制すれば、国民は健康になり、元気に働く人が多くなりますから税収は上がり、国民医療費は下がります。特に子どもの病気は劇的に減るはずです。子どもは、9歳までの「低(過)栄養暴露」によって、一生の病気になる素因が決まるので、幼いときにいい油だけを取ることがとても大事なのです。

企画・構成/黒坂 勉 取材・文/小野博明 撮影(プロフィール)/木下大造

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山田豊文(やまだ・とよふみ)さん
<教えてくれた人>
山田豊文(やまだ・とよふみ)さん
杏林予防医学研究所所長。米国公益法人ライフサイエンスアカデミー理事長。あらゆる方面から細胞の環境を整えれば、誰でも健康に生きていけるという「細胞環境デザイン学」を提唱し、本来あるべき予防医学と治療医学の啓蒙や指導を行う。2013年6月に「杏林アカデミー」を開講。細胞環境デザイン学を日本に広めていくための人材育成に力を注いでいる。2015年9月、東京・赤坂に「アカサカフロイデクリニック」を開院。細胞環境デザイン学に基づく医療を提供している。主な著書に『細胞から元気になる食事』(新潮社)、『病気がイヤなら「油」を変えなさい!』(河出書房新社)、『なぜ、マーガリンは体に悪いのか?』(廣済堂出版)、『脳がよみがえる断食力』(青春出版社)、『「老けない体」は骨で決まる』(青春出版社)など。
この記事は『毎日が発見』2016年4月号に掲載の記事です。

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