近年、口腔機能の低下が全身の不調につながるとよく知られるようになってきました。こうした口腔機能の低下には、歯周病や虫歯などによるかむ力の低下・だ液の減少・舌の筋力の衰えなどがあげられます。ただ口と歯は、日々のセルフケアで健康に保てます。
今回は自分自身で毎日できる"口腔機能を健康に保つ方法"を、東京医科歯科大学講師で認定歯科衛生士(老年歯科)の小原由紀先生に伺いました。
前の記事「すきま時間で可能!口内環境を整える"だ液腺マッサージ&舌の体操"/口と歯(7)」はこちら。
舌のケアで口臭を解消。すすぎうがいで酸蝕歯を防ぐ!
舌の汚れは、食べたり話したりするときに舌が動くことで、ある程度は取れます。
しかし、加齢により舌の働きが鈍くなったり、だ液の量が減ったりすると汚れは取れにくく なります。汚れがたまり、細菌が繁殖すると、舌苔が付いて口臭の原因となります。舌のケアをして、口臭を予防しましょう。
●舌苔ができる原因は?
だ液の分泌量の減少
だ液には、汚れや細菌を洗い流したり、細菌の増殖を抑える働きがあります。そのため、だ液の分泌が減ると、舌苔が付きやすくなります。
口の中がきれいに掃除できていない
舌苔は、食べかすや口の中ではがれた粘膜、細菌 が舌の表面に付いて起こります。口内がきちんと清掃できていないと、舌苔が付きやすくなります。
口呼吸をしている
口でばかり呼吸していると、口内が乾いてだ液の循環が滞ります。すると、舌苔が付きやすくなります。
●舌苔のケア
歯磨きの後に
歯ブラシを奥から手前に優しく動かします。
舌苔を取るときは
▶舌の清掃は、普段の歯磨きで使っている歯ブラシでできます。「柔らかめ」 もしくは「普通」の毛の硬さの歯ブラシを選びましょう。また、専用の舌ブラシも市販されています。
▶舌苔が付いている部分 (斜線部)に歯ブラシが当たるよう、鏡を見ながら行います。 舌苔が付いていない部分は清掃の必要はありません。
▶歯ブラシは、舌の奥から手前に向かって動かします。歯ブラシを手前から奥に動かしたり、前後に往復させるのはNGです。
酸によりエナメル質が柔らかくなると、歯は削れやすくなります。その状態からエナメル質 が元の硬度を取り戻すには 30分ほどかかるので、食後はなるべく早めに「すすぎうがい」をしましょう。その後、いつも通りに歯磨きを行えば、酸蝕歯(さんしょくし)の予防に効果的です。
酸蝕歯って?
歯の表層部分であるエナメル質は非常に硬い組織でできていますが、飲食物に含まれる酸や胃液 (酸)に触れると一時的に柔らかくなり、歯のミネラルが失われます。この状態で、歯磨きや食いしばりなどをするとエナメル質が削れやすく、時間の経過とともに歯が薄くなります。このように酸が原因で 歯が溶けてしまうことを「酸蝕歯」と言います。
●すすぎうがい
食後、なるべく早めに口をすすぐことで、口内が酸性に偏るのを防ぐことができます。
<酸性に傾きやすい飲食物>
・かんきつ類
・黒酢
・スポーツドリンク
・ワイン
・ビール
・炭酸飲料
・南蛮漬け
・酢入りのドレッシング など
◎気を付けたいこと!
就寝前の酸っぱいものはNG!
寝ている間はだ液の量が減少するため、酸が中和されにくくなります。そのため、就寝前は摂取を控えましょう。
歯の表面が丸みを帯びていたら...
酸蝕歯は、歯が溶ける点では虫歯と同じように思えますが、 歯全体が薄く溶けるために、虫歯のように歯に穴が開くことも、痛みを感じることもほとんどありません。歯の表面や 角の部分が丸みを帯びて見えたり、歯の先端が透けて見える場合は酸蝕歯を疑いましょう。
取材・文/笑(寳田真由美) イラスト/はせがわめいた
小原由紀(おはら・ゆき)先生
東京医科歯科大学講師、認定歯科衛生士(老年歯科)。東京都健康長寿医療センター非常勤研究員、日本歯科衛生士会理事。