認知症の予防や対策などについて考える「第7回日本認知症予防学会学術集会」が、 ことし9月、岡山市で開催されました。今回の学術集会で発表された最新の情報を基に、日常生活の中でできる、 認知症予防策をご紹介します。
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三つのエネルギーを整えて、心身共に元気に
5000年以上の歴史があるインドの伝統医学「アーユルヴェーダ」 が、認知症予防の分野で改めて注目されています。「現代医学の対象は あくまで病気を持つ人ですが、アー
ユルヴェーダでは健康な人も対象とします」と話すのは、岡山大学病院(神経内科)病院講師の菱川望先生。
「アーユルヴェーダには若返りの医学とも呼ばれる"強壮学(きょうそうがく)"、つまり健康な人の健康維持・増進という予防医学の分野があります。この強壮学が、発症の20 年も前から脳に病理的変化が生じる認知症の予防に、生かせると期待されているのです」。
アーユルヴェーダでは、人の体には「火」「水」「風」の三つのエネル ギーがあり、そのバランスによって 健康が保たれていると考えます。よく例えられるのが、野外で行う飯盒炊爨(はんごうすいさん)。適量の米と水=「水」、適度な火加減=「火」、そして適度に吹く風=「風」がそろって、初めておいしいご飯が炊けますが、もしも火が強過ぎればご飯は焦げてしまいま す。人の体も同じで、三つのバランスの乱れが病気につながります。
実は、このバランスを乱す要素の一つが、年齢。年を重ねるほど「風」のエネルギーが強くなり、いろいろ な病気や認知症を引き起こします。「風」を鎮静していかにバランスを保つかが、エイジングケア、ひいては認知症予防につながります。
「"風"を鎮静する代表的なものの 一つに、"ごま"があります」。そこで、次の記事からは、ごまのパワーを生かすアーユルヴェーダの知恵の数々を、ご紹介していきましょう。
アーユルヴェーダの 三つのエネルギー
「人の身体には生理機能を司る三つのエネルギーがある」というのがアーユルヴェーダの考え方です。 これらのバランスが取れた状態が、健康とされています。体質や年齢、季節などに加え、食生活、睡眠、運動習慣なども、 バランスの乱れを引き起こします。
●体の中の消化と代謝を担う「火 (ピッタ)」
夏~初秋にかけてピッタのバランスを崩しやすく、食欲が低下したり、疲れやすくなったりします。消化の良いものや、スイカなどの夏野菜を意識して取りましょう。
●体内の消化管の運動、 運搬、循環、排泄を担う「風 (ヴァータ)」
晩秋~冬に増えるエネルギー。 体が冷え、肌が乾燥しやすくなるので、食べ物や運動で体を温めて。白ごま油を使ったオイル マッサージは、特におすすめです。
●骨や筋肉を結合させる 構造維持を担う「水 (カパ)」
春はカパのバランスを崩しやすく、花粉症などアレルギー症状が出やすい季節。ターメリック やショウガ、春の七草のような辛味や苦味のあるものを取るといいでしょう。
次の記事「体を温めて整える。「ごぼう+ごま」で好調に!/認知症予防(9)」はこちら。
取材・文/佐藤あゆ美
菱川 望(ひしかわ・のぞみ)先生
岡山大学病院(神経内科)病院講師。日本内科学会総合内科認定医・専門医、認知症専門医。インドの伝統医学、 アーユルヴェーダに造詣が深く、その知恵を生かした予防医療を展開。