思うように意思が伝えられず、もどかしい気持ちを抱き、自信を失います
「頭の中から言葉が消えてしまった」と想像してみてください。
相手に自分の意思を伝えたいのに、それを表す言葉が頭にない――。
これは、認知症の「失語」と呼ばれる症状です。
失語は、脳の言語をつかさどる領域が衰えることが主な原因です。
また、口から音を発する脳幹が衰え、話すことが苦手になって失語が現れることもあります。
失語の症状は、次のような形で現れてきます。
●「あれ」「それ」といった代名詞が増えたり、ハサミを「切るやつ」といったり、ペンを「書くやつ」などといったりする。
●質問をしても、オウム返しにする。
●「ミカン」を「ミンカ」、「とけい」を「どげい」などといってしまう。
●話すスピードが遅くなったり、たどたどしくなったりする。
●「今日、天気、よい」といったように、文法を無視した話し方をする。
これらの状態は、本人が意思を伝えようとがんばっていることの表れです。
上のマンガは、頭の中では「万年筆」「封筒」「便箋」といった物を探しているものの、それらの名前が出てこなかったり、名前をうまく発音したりすることができず、なんとかしてそのことを伝えようとしている状態です。
「思うように言葉が出てこない」「身近な家族と意思疎通ができない」という状況は、もどかしく、孤独なものです。
徐々に自信を失ったり、疎外感を感じたりしてしまいます。
こうしたときは、まず、周囲の家族は相手の言葉をしっかりと聞き、顔を見て、相槌を打つようにしましょう。
また、ご本人の言葉をていねいにオウム返ししたり、相手の気持ちを言語化したりすると、本人は「聞いてもらえている」という安心感を得られます。
何をいっているかがわからないときは、ご本人の身振り手振りや表情を見ると、何をいっているかがわかることがあります。
対応のポイント
●相手に「聞いてもらえている」という安心感を持ってもらうため、しっかりと相槌を打ち、ていねいにオウム返しをしたり相手の気持ちを言語化したりして、話を聞く姿勢を取ろう。
● 相手の身振り手振りや表情を見ると、何をいっているかわかるときがある。
【次回】「わかった・・・」と返事だけ。お母さん、最近口数が減ったけど大丈夫?/認知症の人が見ている世界
認知症ケアに携わってきた著者が、実際に接してきた中で気づいたケーススタディがマンガでわかりやすく解説されています