「アレどこだっけ? ほらアレだよアレ・・・」お義父さん、アレじゃわからない!/認知症の人が見ている世界

思うように意思が伝えられず、もどかしい気持ちを抱き、自信を失います

「頭の中から言葉が消えてしまった」と想像してみてください。

相手に自分の意思を伝えたいのに、それを表す言葉が頭にない――。

これは、認知症の「失語」と呼ばれる症状です。

失語は、脳の言語をつかさどる領域が衰えることが主な原因です。

また、口から音を発する脳幹が衰え、話すことが苦手になって失語が現れることもあります。

失語の症状は、次のような形で現れてきます。

●「あれ」「それ」といった代名詞が増えたり、ハサミを「切るやつ」といったり、ペンを「書くやつ」などといったりする。

●質問をしても、オウム返しにする。

●「ミカン」を「ミンカ」、「とけい」を「どげい」などといってしまう。

●話すスピードが遅くなったり、たどたどしくなったりする。

●「今日、天気、よい」といったように、文法を無視した話し方をする。

これらの状態は、本人が意思を伝えようとがんばっていることの表れです。

上のマンガは、頭の中では「万年筆」「封筒」「便箋」といった物を探しているものの、それらの名前が出てこなかったり、名前をうまく発音したりすることができず、なんとかしてそのことを伝えようとしている状態です。

「思うように言葉が出てこない」「身近な家族と意思疎通ができない」という状況は、もどかしく、孤独なものです。

徐々に自信を失ったり、疎外感を感じたりしてしまいます。

こうしたときは、まず、周囲の家族は相手の言葉をしっかりと聞き、顔を見て、相槌を打つようにしましょう。

また、ご本人の言葉をていねいにオウム返ししたり、相手の気持ちを言語化したりすると、本人は「聞いてもらえている」という安心感を得られます。

何をいっているかがわからないときは、ご本人の身振り手振りや表情を見ると、何をいっているかがわかることがあります。

対応のポイント

●相手に「聞いてもらえている」という安心感を持ってもらうため、しっかりと相槌を打ち、ていねいにオウム返しをしたり相手の気持ちを言語化したりして、話を聞く姿勢を取ろう。

● 相手の身振り手振りや表情を見ると、何をいっているかわかるときがある。

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認知症ケアに携わってきた著者が、実際に接してきた中で気づいたケーススタディがマンガでわかりやすく解説されています

 

川畑智(かわばた・さとし)
理学療法士、熊本県認知症予防プログラム開発者、株式会社Re学代表。熊本県を拠点に、病院や施設における認知症予防や認知症ケアの実践に取り組む。

 

遠藤英俊(えんどう・ひでとし)
聖路加国際大学病院臨床教授、元国立長寿医療研究センター長。認知症や医療介護制度などを専門とし、国や地域の制度・施策にもかかわりが深い。

 

浅田アーサー(あさだ・あーさー)
マンガ家。

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『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』

(著:川畑智、監修:遠藤英俊、マンガ:浅田アーサー/文響社)

認知症って、何もかもがわからなくなるわけではないの? 認知症の人が見ている世界を知り、「なぜ?」を解決できると、介護はもっとラクに。認知症ケアの第一人者がひも解いた、マンガでわかる介護メソッドです。

※この記事は『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』(著:川畑智、監修:遠藤英俊、マンガ:浅田アーサー/文響社)からの抜粋です。
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