「病気の名前は、肺がんです」。医師からの突然の告知。しかも一番深刻なステージ4で、抗がん剤治療をしても1年生存率は約30%だった...。2016年9月、50歳でがんの告知を受けた刀根 健さん。残酷な現実を突きつけられても「絶対に生き残る」と決意し、あらゆる治療法を試して必死で生きようとする姿に...感動と賛否が巻き起こった話題の著書『僕は、死なない。』(SBクリエイティブ)より抜粋。過去の掲載で大きな反響があった連載の続編を、今回特別に再掲載します。
※本記事は刀根 健著の書籍『僕は、死なない。』から一部抜粋・編集しました。
※この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。
手放すということ
その日の夜だった。
僕の携帯がメールを受信した。
それは先日訪ねて原稿をチェックした出版社からだった。
メールの内容はこうだった。
「出版に対する方向性の違いがあるようです。今回の出版は残念ながら"なし"ということにしましょう。今までお疲れ様でした。これからもご体調にはお気をつけください」
...。
出版が、没になった...。
まただよ...
屋根に上って、はしごを外される...。
あの苦しかった6ヶ月は、一体何だったんだろう?
再発しそうになってまで、必死に書き上げたのに...。
そのとき、ふと年末に姉に言われたことを思い出した。
「なんでそんなおんなじことを、何度も繰り返すかってことよ」
「いつもそう。最後は『裏切られた』『許せない』って叫ぶの。どうしてそんなに繰り返すんだろう?」
「もしかすると、いや、たぶん、まだまだそこから学ぶことがあるってことなのよ」
学ぶ...
何を?
そう...
きっとそうだ!
手放せ!
手放せ!
手放せ!
"自分"が苦労して作り上げたものだからこそ、"手放す"んだよ!
そう、昼間、自分で言っていたことを思い出せ!
"僕"はしがみつく
"僕"は恐れる
"僕"は怒る
"僕"は叫ぶ
「僕は"被害者"だ」
「僕は"犠牲者"だ」
「僕は"不運"だ」
「僕は"かわいそうだ"」
そう...
全ての流れを滞らせていたのは、他でもない"僕"だったんだ。
自分の執着を手放すんだ!
自分の不安を手放すんだ!
自分の恐れを手放すんだ!
明け渡すとき、"僕"は消える。
何が何に、何を明け渡すのかって?
"僕"が"宇宙という全体"に"僕自身"を明け渡すっていうこと。
サレンダー...信頼。
目の前に起こったことを、考えずに、全信頼、100%受け入れる。
そこに"僕"は存在しない。
"僕"は、消えていなくなる。
そこには絶対的な信頼、絶対的な一体感と安心しか存在しない。
だからこそ、あとの展開は"宇宙にお任せ"状態になる。
手放すこと...を学ぶこと。
そうか、そういうことだったのか...。
突然の退職、本の出版が没になる、こういう出来事は全て僕の魂が"サレンダー"...つまり"僕"を手放すことを学ばせるため用意したイベントだったんだ...。
僕は、本の出版を完全に"手放し"た。
僕は、退職に関してのモヤモヤした気持ちも、全て"手放し"た。
そう、僕は"僕"を手放した。
そのとき、もう「被害者だ」「犠牲者だ」と叫んでいた"僕"は消え去っていた。
もう前の会社や、今回の出版社や編集者に対する「裏切られ感」を感じることはなかった。
それは全体から見ると、小さな"手放し"だったかもしれない。
でも、そこには東大病院で感じたあの『スッキリとした心地のよい空間』が、広がっていた。