80年前に出版された歴史的名著を現代によみがえらせた『漫画 君たちはどう生きるか』。糸井重里さんや松浦弥太郎さんも絶賛し、アマゾンの売れ筋ランキングで総合1位(2017/11/4調べ)に、丸善日本橋店ではフィクション部門1位(8/17~8/23集計)になるなど、各所で話題になっています。
アニメーション監督の宮崎駿さんが、制作中の新作タイトルを『君たちはどう生きるか』にすると発表したことで、さらに注目を集めました。この本は、宮崎監督のアニメ作品の原作ではありませんが、主人公にとって重要な作品として登場するのだそうです。
悩むコペル君に向けられたおじさんからの言葉
15歳の主人公・コペル君は、いじめ、貧困と格差、友達との信頼といった問題にぶつかっては、思い悩みます。お父さんを早くに亡くしたコペル君の相談相手は、お母さんの弟である"おじさん"。
ある時、コペル君はクラスで行われている「いじめ」について、おじさんに話をします。いじめられているクラスメイトがいるのに、誰も手を差し伸べない、と。コペル君の話を真剣に聞いてあと、おじさんは答えます。
つまりそんなときどうすればいいのか...... おじさんに聞きたいってことかい?
そりゃあ コペル君 決まってるじゃないか 自分で考えるんだ
いくらでもアドバイスできるはずが、「自分で考えるんだ」と突き放します。
人を育てる年齢になったわたしたちは、子や部下とどう向き合うのか?
人生のさまざまな難問にぶつかるコペル君に対して、おじさんは「こうすればいい、ああすればいい」とは決していいません。ニュートンやナポレオンといった偉人を引き合いに出しながら、コペル君自身に考えさせようとします。
現代なら、インターネットを使えば、「○○を解決するたった一つの方法」といった記事がいくらでも見つかります。「ググってみれば?」が最良のアドバイスになることもあります。
ところがコペル君のおじさんは、しっかりと話を聞いた上で、あえて「自分で考えるんだ」と言います。ここに、今を生きる大人のための大きなヒントがあるように思います。
おじさんがコペル君に向き合う態度は、「親として子にどう向き合うか」「上司として部下にどう向き合うか」にも通じるものがあります。即効性のある解決策がいいなら、ほかの誰かがすでに考え出した方法をまねるのが効率的でしょう。また、年長者としてできる助言もたくさんあるでしょう。ですが、そうはせずに「自分で考えるんだ」と言うこと――。
大切なのは"答え"だけではありません。答えにたどりつくまでの"プロセス"もまた重要なのです。自分で悩み、考える、その過程が人を成長させます。
その結果たどりついた"答え"には、グーグルが教えてくれる正解よりも、大きな価値があるのではないでしょうか。時には「自分で考えるんだ」と突き放し、本人が答えを見つけるまで"待つ"、そのことの意義を教えてくれている気がします。
文=今井康宏
(原作 吉野源三郎 / 作画 芳賀翔一 / マガジンハウス)
1937年の出版以来、多くの人々に読み継がれてきた吉野源三郎さんの名著『君たちはどう生きるか』。時代を超えた名作が、原作の良さをそのままに、漫画の形で今によみがえりました。初めて読む人はもちろん、何度か読んだことのある人も、一度手に取って、人生を見つめ直すきっかけにしてほしい一冊です。