『60歳の迎え方 定年後の仕事と暮らし』 (河野純子/KADOKAWA)第8回【全10回】
「人生100年時代は、まず女性にやってきます」──そう語るのは、女性向け求人誌「とらばーゆ」元編集長で、現在はライフシフト・ジャパンの取締役CMOを務める河野純子さんです。一般的に60歳は定年とされていますが、人生100年時代においては、それは人生の一つの転換点に過ぎません。その後の40年を「楽しく働き、自由に生きる」ことが重要だと河野さんは言います。『60歳の迎え方 定年後の仕事と暮らし』(KADOKAWA)は、60代以降、好きな分野で小さな仕事を立ち上げ、90歳まで続けるために必要な心構えや準備についてまとめられた一冊です。今回は、この本の中から、会社や家族のためではなく、自分の人生を生きるために知っておきたい情報やスキルを抜粋してご紹介します。
※本記事は河野 純子著の書籍「60歳の迎え方 定年後の仕事と暮らし」から一部抜粋・編集しました。
時間がかかるのは「やりたいこと」を見つけるプロセス
例えば56歳で大手IT機器メーカーを役職定年して、「カフェを併設したシニア向けパソコン教室」を開業した伊勢谷圭了子さんは、53歳ごろから仕事の壁を感じて、セカンドキャリアを考えるようになりました。けれども自分が何をやりたいのかがわからず、もんもんとした苦しい日々を過ごします。やがて会社の中でストレスを感じている人を多く見てきたことから、「人が安心して集まる場所、人が幸せになれる場所をつくりたい」と思うように。具体的にカフェでの起業を考えるようになったのが役職定年1年前のことでした。
そこから経済産業省が後援する起業支援プロジェクト「ドリームゲート」で「カフェ開業コース」を見つけて学び、カフェと、自身の知識を活かせるパソコン教室を併せた場所を作ることを決めます。そして、役職定年を迎え退職。その半年後に開業にたどり着いたのです。
伊勢谷さんの場合は起業テーマを見つけるまでに3年という時間がかかりました。中には10年かかったという人もいます。なぜそんなに時間がかかるのかというと、起業テーマを見つけることは、これからの自分にとっての働く意味や、生きがい、幸せを考えることでもあるからです。これは時間をかけてじっくり悩むに値するもの。ここで「ありたい自分」を見つけることが、この先の長い人生を楽しいものにしていくのです。
考えてみれば、会社員としてのキャリアは自分の意思だけで積み上げてきたものではありません。良い上司に出会えれば適性や能力をみてキャリア支援を受けられることもあるし、自分の希望が通ってやりたい仕事ができることもあります。けれども会社の都合に振り回されるケースもしばしば。これまで経験してきた仕事が本当に自分にあった仕事だったのか、やりたかったことなのかはよくわからないという人も多いのです。全く未経験の分野で起業した人の中には、これまで仕事で培った経験を活かすことも考えたけれど、それだと逆に選択肢が狭くなり、ワクワクしない、結局全く異なる分野を選んだという人もたくさんいます。
またこれからの人生をどう創っていきたいかを考えるのであれば、仕事は重要な要素ではあるものの、気になることはそれだけではありません。これまで仕事に多くのエネルギーを注ぎ込んできたけれど、これからは家族や地域とのつながり、日々の暮らしを大事にしていきたいと考えている人もいるでしょう。夫と卒婚してもっと自由に生きたいという人もいます。親の介護が気になっている人もいるでしょう。会社員を卒業するのですから、会社の近くに住む必要はありません。実家の近くに戻る人もいます。リモートワークの普及で複数の拠点で暮らし始める人もいます。