<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男性
年齢:60
プロフィール:地方都市で町役場に勤める60歳の男性です。長女(27歳)は実家を離れ関東圏で中学校教師をしています。
実家を離れた直後は毎日のように電話をしてきた娘ですが、中学校教師の生活も3年目を迎えると、慣れと忙しさで電話の間隔が空いてきました。
便りがないのは...とは言うものの、あまり間が空くと心配になってきます。
「4月に電話してきたきりだなあ、たまにはこっちから...」
待ちきれなくて珍しくこちらから電話を入れたのは2022年の6月のことです。
「あ、お父さん...珍しいね、かけてくるなんて...」
「ちょっと間が空いたからな、どうしてるかと思って...」
「ああ、そう...ちょっと、今、取り込み中で...」
少しドギマギした感じの声でしたので、タイミングがまずったかと思いました。
「そりゃ悪かったな、じゃ、後でかけ直して...」
と言いかけた瞬間、電話の奥から声が聞こえてきました。
「ねえ、箸ってこれ?」
思わず息を呑みました、明らかに若い男の声でした。
「あ、私が...ごめん、後で」
娘がその声に答えたところで電話は切れました。
しばらく受話器を握ったまま呆然としてしまいました。
娘の所に若い男が? 箸って言ってたな、ってことは一緒に食事をしてるのか? いや、まあ娘も年頃だから、そんなこともあるかもしれないが...もう一緒に暮らしてるとか!?
次々と疑念が湧き上がりましたが、娘からの折り返しもなく、こちらもなんとなく気まずくてかけ直せませんでした。
数日たって、娘からLINEが入りました。
「お父さんならどれを選ぶ?」
というメッセージが添えられた画像には、華やかな印象のネクタイが3本並んでいました。
服飾店でネクタイを選んでいるように見えました。
私への贈り物でないことはデザインの派手さから明らかです。
こないだの男へやるのか? ネクタイを選ぶような関係ってことか? 一体どういう関係なんだ? モヤモヤは募るばかりです。
「どれも同じにしか見えないなあ、どれかが似合うような人ならどれでも似合うんじゃないか?」
と、いい加減な返信を返すと、サンキュ、と短く返信してきて終わりました。
結局、その後は当たり障りのない電話ばかりのまま、8月を迎え、娘は帰省してきました。
「ただいまあ、ああ、やっぱり我が家はいいわあ」
特に変わった様子や後ろめたい様子は見られません。
思い切ってこちらから切り出してみました。
「何か、その、変わったこととか、知らせたいこととか、紹介したい人とか...ないのか?」
娘はキョトンとした顔でこちらを見ています。
「...知らせたいこととかは、まあ分かるけど...紹介したい人って? ...あ、まさか!」
こちらの心配事を察したようです。
「はあ、なるほど、なんかジロジロ私を見てるなとは思ってたけど、そういうことかあ」
笑いながら事情を話し始めました。
「電話のときの男の人でしょ? あれは同僚の先輩、学校で授業の相談をしてたら遅くなっちゃったんで、カップ麺でも食べようって話になったんだよ」
「職場だったのか、あんな時間に?」
「だからすごく授業の進め方が難しいところで、丁寧に教えてもらったんだよ。でまあ、お礼にネクタイでもって思ったわけ」
カラカラと笑いながら話す娘に、あっけにとられていました。
「...残念でしたねえ...浮いた話の一つもないつまらない娘で」
とからかうように言われてしまいました。
正直なところホッとしましたが、いやいやどこまで本当か分からんぞ、と疑心暗鬼が続いている今日このごろです。
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