<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男性
年齢:60
プロフィール:地方都市の町役場に勤める60歳の男性です。教育委員会に勤めた経験もあって、教育事情に関心があります。
4年ほど前、2018年の話になります。
10月頃でしたので、町はすっかり秋めいていました。
当時(今もですが)町の広報誌の担当だった私は、取材をするために町外れの住宅街の中を公用車で走っていました。
「ん? なんだ、あれ...」
異様な光景が飛び込んできました。
高学年と思しき小学生のグループが道端を歩いています。
おそらく下校途中でしょう。
なんの変哲もない日常風景に見えましたが、よく見てみると、その中の1人がランドセルを3つも持たされているではありませんか。
「がんばれ、がんばれ」
周りの子は何やらはやし立てていますが、手を貸そうとはしません。
「なんだか変だな...もしや、いじめられてるんじゃないのか?」
教育委員会勤務の経験もあり、わが町の教育事情には関心があります。
その小学校の一つでいじめが起きているとなれば、これは一大事です。
「おい! 君たち!」
車を停め、彼らを呼び止めました。
「はい? あ、こんにちは!」
なんとも爽やかな雰囲気で、しっかりお辞儀をしながらあいさつをしてきました。
周りではやし立てていた子もランドセルを持たされていた子も、立ち止まって立派な態度です。
きちんとした態度に先ほどの光景との違和感を覚えましたが、状況を聞かないわけにはいきません。
「なんで彼だけいくつもランドセルを持たされてるわけ?」
彼らはドギマギしながら返答するものと思っていたら、まったく違いました。
「ああ、電柱ごとに交代する約束なんです」
1人の子がにこやかな表情で明るく返答してきました。
交代? と改めて子どもたちを見ると、周りにいる子もちゃんと自分のランドセルを背負っています。
どうやら自分のランドセルを押し付けているわけではないようでした。
「...え? 一体、誰の、ランドセル?」
まさかどこかから盗んできたとかじゃないよな、それじゃいよいよ犯罪だぞ、と不安がよぎりました。
すると、1人の子が前を指さして言いました。
「あの子たちのです」
見ると、体格のいい男の子が黄色い帽子の女の子(おそらく1年生)を背負って小走りに駆けていました。
「転んじゃったんですよ、あの子。で、あいつが家までおぶってくって」
「じゃあ、荷物だけでも俺たちで運ぶから、って言ったんです」
「で、交代で運ぶほうが楽じゃない? って話になって...ほら、ちょうど電柱だ。次〇〇くん」
ランドセルを3つ抱えた子が、そのうちの2つを名前を呼んだ子に渡しました。
彼らは交代で、けがをした下級生とそれを家まで送る上級生の仲間のランドセルを運んでいたわけです。
「ああ、そうだったのか、いや私はてっきり...」
「あ、すみません、2人を見失うとまずいんで、もう行きます。さようなら!」
子どもたちはお辞儀をすると、荷物を持った子を励ましながら去っていきました。
下級生を助け、その荷物を代わって運んでいこうとする、頼もしい上級生たちの姿に心を洗われる思いでした。
もちろん、役場に戻ってから茶飲み話として同僚にこのことを話します。
「いいね、わが町の未来は安泰って感じだね」
みんなでそう言い合い、誰もが清々しい気持ちになりました。
翌月の広報誌には、この頼もしい小さな町民の話題が編集後記を飾りました。
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