<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男性
年齢:60
プロフィール:今でも職場が乱雑になっていると朝のうちに片付けすることがありますが、共有スペースのみにとどめています。
私は実家を離れて地方の大学に進学し、そのまま地方都市の公務員として就職しました。
今年の春に定年を迎えましたので、40年近く前の話になります。
私は自然の豊かな町に魅了され、町職員として働くことを決め、振り出しは町民課でした。
「ようし、町のために頑張るぞ!」
いよいよ公務員としての生活が始まり、私は張り切っていました。
アパート住まいの身なので家にいても面白くなく、朝は課の誰よりも早く出勤していました。
誰もいない職場に一番乗りするのはなかなか気持ちの良い習慣でした。
「さて、今日も頑張るぞ...と、おや?」
そんな日々を過ごしていて気づいたことがありました。
課内の机脇に置かれたゴミ箱に結構ゴミが残っているのです。
町民課から出るゴミは、町民のプライバシーに関わるものも含まれており、当時は即時焼却処分が原則でした。
ちなみに、まだ役場内に焼却炉があった時代の決まりです。
今はすべてリサイクル業者に機密扱いでの引き渡しになっています。
「みんな忙しいからなあ、忘れてるんだな」
ルールとしては日勤終了時、各職員が自分で焼却予定ストックにゴミを入れることになっていました。
しかし、机脇のゴミ箱が一杯になるまで置いておく方も多いようで、結構多くのゴミがそのままになっていたのです。
「...よし、これは毎朝、自分がまとめて捨てるようにしよう」
こう考えた私は、それから毎朝の習慣として、課内の全てのゴミ箱の片付けを行うことにしました。
毎朝、スッキリと片付いた様子を見ては悦に入っていたものです。
そんな朝のルーティンに取り組んで1カ月ほどが過ぎました。
「ウジくん、ちょっと...」
上司(当時40代後半)に呼ばれました。
なんだろう、と思いながらついていくと個室に入るよう促されました。
「熱心に仕事をやってくれてるようだね。...ところで、朝、ゴミの始末をしているようだね」
お、これはお褒めのお言葉かな、と思い、
「お気付きいただけていたんですか? お恥ずかしいです。まだ新人ですから、少しでもお役に立てればと...」
調子に乗って言いかけたところで、上司に遮られました。
「いや、やめてほしいんだよね、それ...」
思いがけない言葉に呆気にとられていると、上司は申し訳なさそうに続けました。
「朝、早目に出勤した人がね、君がゴミの始末をしてるのを見て、前日に処分し忘れたのをチェックしてるんじゃ、っていぶかしんでるんだよ」
「そんな...中身は確認していません」
「分かってるよ、そんなつもりじゃないとは思ってる。...でもね」
上司は一層声を潜めてこう言いました。
「誰かの指示でやってるんじゃないかという人が出てきて...僕が査定の一環でやらせてる、なんて言うやつまでいて、ほんと困ってるんだよ...」
「そんな、私はただみなさんの手間を省ければと思って...」
「分かってる、分かってる、僕はね。...ほんと、気持ちはありがたいんだけどね...」
こうして私のささやかな一日一善はあえなく頓挫しました。
なんの気なしに、やっている行いをいろんな目で見る人がいるものなんだなあ、と勉強にもなり、社会に出てやっていくことの難しさを知る機会にもなった出来事でした。
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