<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ころちゃん
性別:男性
年齢:54
プロフィール:コロナが収束したらもっと仕事をしようと考えていましたが、それを待っていたら定年になってしまうと慌て出した今日この頃です。
10年ほど前、長期入院から退院した直後の話です。
ほぼ寝たきりで1カ月以上過ごしたため、リハビリはしたものの、体力、気力がひどく衰えていました。
学習塾の勤めがありましたが、即座に復職もできず、リハビリをして体力を取り戻す必要がありました。
そんな折、知り合いがリハビリがてらにと、女性(60歳)を相手にした英語の家庭教師の職を紹介してくれたのです。
私はこの話をありがたく引き受けました。
彼女との初対面は非常に好印象でした。
「若い頃に逃した学びの機会を取り戻したい」
「英語をばりばり勉強して話せるようになりたい」
これを聞き、私は社会生活へのリハビリのみならず、英語学習の仲間を得たと喜びました。
ところが、始めてみると最初の言葉と全くの正反対。
やたら文句が多いのです。
近い意味の2つの単語、例えば「small」と「little」が出てくると、見る見る機嫌が悪くなります。
「小さいはスモールじゃないのですか? どうして2つもあるのですか? 英語って本当に困りますねえ」
軽い泣き言など気にしませんが、中学生じゃないんだから...いい大人がくだらない不満ばかり口にしていると、溜息が出てしまいます。
対照的に、初歩レベルの文法については言語学者かというくらいまで問い詰めます。
「どうしてamとかisとか変化するのですか」
まずは深く考えず、とりあえず英語を読んだり聞いたりして楽しく理解するのはどうか、自分で書いたり話したりする練習をしてはどうか、そのように助言しました。
ところが、理屈をこねるわりに単語一つ覚えない姿勢は変わりません。
「英会話もしたい」と言うので、短い英文の発音練習させようとしましたが、饒舌だった口が途端に重くなりました。
「人の前で発音するとか、そういうの無理なんです。だから英会話学校にも行けないんです」
何のために英語を学ぼうとしているのかと疑問でしたが、それ以上は言いませんでした。
それでも、学習に関するおかしな愚痴だけならまだ我慢できました。
どうしても我慢できなかったのは、夫婦関係に関するいびつな感覚です。
雑談の際、彼女の夫に話が及んだときのこと。
「世の男性は可哀想ですね。女はみんな、夫には早く死んでほしいと思ってますよ」
冗談と受け止め、笑って流しました。
ところが、私の反応に彼女はムキになったのです。
「本当ですよ! 私の友だちでご主人が亡くなった人たちは、みんな生き返って幸せになってます」
そして、定年後に夫が死ぬことによってメリットこそあれ、デメリットは何もないということを熱く語り出すのです。
一般的に女性の方が長寿な上、夫を失くしてからも長生きするといった知識は、私にもありました。
しかし、死んでくれたらありがたいとは、穏やかな話ではありません。
また、夫への単なる愚痴ならかける言葉もありますが、「みんな」と一般化されると不愉快の極み。
独身とはいえ私自身は男性であり、こんな話が楽しいわけがありません。
耐えかねて「うちの母も父が死ねば喜ぶんですかね」と皮肉を込めて言うと、初めてはっとしたような表情を見せました。
「いえ、先生のお宅は例外だと思います」
彼女のネガティブな愚痴は、その後もどんどん増えていきました。
勉強を大義名分にして、いろいろ愚痴りたかっただけなのかもしれません。
それにしても、愚痴は聞いているだけで随分と疲れます。
リハビリどころか、精神的に辛いと感じるようになりました。
そんな中、彼女の学習意欲は持続せず、この講座もいつの間にか自然消滅しました。
彼女は、今も誰かを相手に愚痴三昧の人生を送っているのでしょうか。
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