<この体験記を書いた人>
ペンネーム:晴れのち曇り
性別:女性
年齢:65
プロフィール:78歳の夫と2人暮らしの会社員です。
10年ほど前のことです。
うららかな春の陽気に誘われて、車庫にしまい込んでいたスクーターを取り出して眺めているうちに、乗りたいと思ってしまったのが、今思えば間違いでした。
いつもなら車で出かける買物へ、その日はスクーターで行くことにしたのです。
頬に直接当たる爽やかな風と太陽の光に気をよくして、大型スーパーへの道を走っていたところ、10代と思しき少年たちが小さな商店の駐車場で、バイクに跨ったり、座り込んだりと思い思いの格好で雑談していました。
その頃、毎日夜になると決まって、爆音を響かせて走り回るバイク集団がいました。
一枚窓の2階で就寝する私は、出て行って苦情を言う勇気もなく、悶々とした夜を過ごしていました。
買い物途中でたむろしている少年たちを見かけた途端、毎夜のことが頭をめぐり、余計なことに気を取られてしまって注意力が散漫になっていたのだと思います。
一瞬、目の隅を白い毛の塊のようなものが過ぎ去り、慌ててハンドルを切りました。
気がついたときには路面に突っ伏した自分の身体の上に、スクーターが乗っているような状態。
恐る恐る顔を上げたとたん、3人の少年の足が見えました。
転倒した痛さより、蹴られるのではという恐怖に固くなっていると、その中の一人が「おばさん、大丈夫? 起き上がれる?」とびっくりするほど、優しい声で手を差し伸べてくれたのです。
緊張が解けた途端に、足が震え、嬉しさで涙があふれ、なんとも無様な姿になっていた私。
やっと平常心に戻ると、白い物体の正体と安否が気になり、少年たちに尋ねましたが、「猫のようなものが駆け抜けていったけど、なんともなさそうだったよ」と教えてくれました。
彼らが夜半に爆音を轟かせ走っているバイクの主と同一集団かどうかは分かりませんが、偏見の目で見ていた自分が恥ずかしくなりました。
優しく接してくれた少年たちに、心の中で詫びつつお礼を言いました。
人は見かけで判断してはいけないと分かっているつもりでも、心の中にあった偏見が、表面に現れたような気がした情けない出来事でした。
実は娘が学生の頃も、逆の立場ではありますが、似たようなことがありました。
娘は厳しい校則の進学校を卒業した途端に解放され、派手な金髪になって1カ月間のびのびと過ごしていたときがありました。
ご近所さんや趣味の仲間たちから、「娘さん、どうされたの? グレてしまったの? あちこちで凄い噂になってたわよ」と言われたら苦笑いするしかありません。
母親から見ると、娘はいたって普通で、進学も無事済ませ、今では社会人として微力ながらも皆様のお役に立っていると自負しています。
当事者でないと分からないことがあるものだと思いましたが、当時は特に言い訳はしませんでした。
今となってはあの少年たちも、進学、就職など次のステップに進むまでの自由な時間に、ちょっと悪ぶっているだけ...そんなふうに思えるのです。
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