【母と最後の15分間】「形見じゃないよ」余命わずかな母、面会は15分間。伝えきれなかった思い

<この体験記を書いた人>

ペンネーム:のいず
性別:男性
年齢:53
プロフィール:フリーランスのシステムエンジニアです。サラリーマンを辞めて今はマイペースで仕事をしています。

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2022年が明けてすぐ、実家の母(86歳)が喉頭がんのため入院しました。

本人の希望もあり、抗がん剤治療や本格的な手術は受けず、緩和ケアでの療養を選択することになりました。

母と同居している兄(56歳)から連絡を受けた私は、現在住んでいる東京から実家のある愛知県へ急いで戻りました。

実家へ着き、兄の運転する車で病院へ向かう途中、兄から母の容態を詳しく聞くことができました。

半年ほど前まではすこぶる元気で体調も良く、新型コロナウィルスの感染状況が落ち着きをみせた秋頃には、近場の観光地へ旅行もしていたそうです。

ところが年末に喉の違和感を覚え、あわせて風邪の症状も現れたため医者へ行き検査したところ、がんが見つかったとのことでした。

それでも入院当初は心身ともに元気があったそうです。

「あの子(私のこと)は仕事が忙しいだろうから、まだ連絡しなくていいよ」

兄が私を呼び寄せようとするたびに、そう言ってくれていたそうです。

3年ほど前、母が観光で東京へやって来たとき、仕事の都合がつかず私は母と会うことができませんでした。

母にはそれが頭の片隅にあったのかもしれません。

そんな母も入院してから1カ月ほどで徐々に体力を失い、私に連絡することを拒まなくなりました。

母と会うのは15年ぶりです。

15年前、結婚を間近に控えた私が、古いしきたりや作法にこだわる父(当時71歳)と口論になったとき、間に入って一番つらい思いをしたのが母でした。

結果的に私の結婚は破談となり、それ以降、私は父に会いたくないという理由で実家へ帰ることはありませんでした。

私は病室へ案内され、母と面会しました。

新型コロナウィルス対策のため、面会は1日1人だけ、しかも家族限定の15分間と決まっていました。

ベッドの上の母は想像以上に痩せ細り、快活でおしゃべりが好きだった以前の姿はどこにもありません。

喉に酸素吸入器をつけた母は、声帯を部分的に切除し、声を失っていました。

会話は筆談になります。

母はベッドの横からノートとボールペンを取り出し、手に力をこめながら一文字ずつ言葉を書き始めました。

「迷惑かけてごめんね」

15年ぶりに会った最初の言葉がこれでした。

私は母に、今日ここへ呼んでくれたこと、来るまで元気でいてくれたこと、そして今までのすべてのことにありがとうと伝えました。

筆談に疲れ、書いた文字が次第に判別できなくなってきたため、私はそのページをちぎって持ち帰ることにしました。

「解読するために持ち帰るね。形見じゃないよ」

冗談っぽくそう言うと、かすかに笑顔を見せてくれました。

15分の面会はあっという間でした。

母に別れを告げ、自宅のある東京へ帰る途中、幼い頃に母がよく歌を聴かせてくれたことを思い出しました。

音程を外しながらも、語りかけるように歌う母。

小学生の私が悪態をつくと、よりいっそう声を高くして歌い続ける母の姿が、まるで昨日のことのようにまぶたに浮かんできます。

しかしその歌声だけは、記憶として甦ってくることはありませんでした。

私が東京へ戻ってからおよそ1カ月後、3月の半ばに母は息を引き取りました。

声が出るうちに会いに行くべきだったと後悔しています。

母は、話したいこと、伝えたいことが山ほどあったはずです。

ちゃんと声を出して伝えたかったに違いありません。

しかしなによりも、私が会いに行くまで生きていてくれた母に、心から感謝しています。

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