衣替えは...今日から!? 一人だけ夏全開の私に向けられた冷たい視線に心も冷え冷え

30年以上前、20代後半だった私は今も勤める町役場の町民課に勤務していました。

窓口に立つ業務もあり、身だしなみには気を遣っていました。

夏はノーネクタイという習慣はまだなく、正式な場では上着着用が求められました。

当時の首相（大平さんか羽田さんだったと思います）が提唱した「省エネルック」は、半袖のスーツという、今から考えれば滑稽な出で立ちでしたが、とにかく上着は必要という考えが残っていた頃の話です。

しかし、まだエアコンさえ十分になかった時代ですから、さすがに役場の夏服は上着はなく、半袖シャツにネクタイ着用が原則でした。

今でも覚えていますが、記録的な冷夏だった年で、9月になるとこのスタイルでは少々肌寒い日もあり、秋の衣替えを待ちわびる雰囲気でした。

痛恨の思い出のその年は、10月1日が土曜日でした。

この頃はまだ土曜日は休みではなく、半日勤務。

「10月だけど、週の最終日、半日だけで衣替えは...ないな」

私は勝手に衣替えは翌週からと思い込み、半袖シャツにノージャケットの夏服出勤をしてしまいました。

「え？　みんな...冬服ゥッ!?」

出勤すると、見事に全員が衣替えしてジャケットを着ていました。

私は確認していなかったのですが、カレンダー通りに10月1日に衣替え、と知らされていたのです。

「ウジさん...やっちまったな」

同僚に呆れた表情で囁かれてしまいました。

さらに運悪く、この日は月初めに全課の代表が集まる全体会議が入っていました。

私は課長のお供で会議参加組で、ずらりと管理職が居並ぶ中に、1人だけ夏服のままで出席するのはまさに針のむしろでした。

会議冒頭、町長の挨拶がありました。

「いよいよ下半期です。今年は寒い夏と言われていましたが...」

町長はちらりと私を見て続けました。

「...まだ熱く仕事に携わっている職員もいるようで...心強く思います」

嫌味タラタラの挨拶のネタにされ、万座の冷笑を買い、冷や汗が止まりませんでした。

地獄の会議後は窓口業務につきました。

「...いや、あの、俺...このカッコだし...」

と情けを乞いましたが、先輩からは

「ダメダメ、決まってることでしょ。ルール通りにやらなくちゃね、何事も」

またまた嫌味攻撃です。

「...いらっしゃいませ、ご用件、承ります」

「え？　あ、えーと...何だったっけ...」

窓口に来た方は私のスタイルと周囲の職員をチラチラと見比べて、なんで１人だけ？と言わんばかりの怪訝な表情で見てきます。

自分の責任とはいえ、なんとも居心地の悪い週末でした。

この頃の土曜日は、午後はレクリエーションでボウリングなどしてから飲み会が恒例で、独身男性は帰ってもしょうがなく、職員間の交流を深める意味でもほぼ100％の出席が普通でした。

しかしこの日ばかりは、お誘いを丁重に断り、早々に帰宅したのは言うまでもありません。