タイプの異なる2人と仏教の教えが起こす化学反応を、自身もワクワクしながら執筆
――お経は日常生活でいつでも読むべき仏様からの教え。ですが、作中で住職も驚いていますし、教えの中には少々厳しいものもあるなと感じます。
近藤丸 お経は亡くなった人のためだけに読まれるものではなく、日常生活の中でいつでも読むべきものなんです。また、仏教の教えの中心に『一切皆苦』という教えがあり、そのことを前提にしたセリフですね。『一切皆苦』は、「あらゆるものは皆苦である」という意味ですが、仏教でいう「苦」とは「思い通りにならない」ということです。あらゆるものが変化し無常だからこその、『一切皆苦』です。お釈迦様が出家した理由と言われている『生老病死』の苦しみも、一切皆苦の一部になります。老も病も死も思い通りにならない事だから苦と捉えます。そして生によって、それらの苦が始まるのです。
――生まれた時から「苦」は始まる。教えとしては厳しすぎるんではないでしょうか?
近藤丸 確かに説明されると、「ずいぶん冷たい教えだな」とか、「ネガティブすぎない?」と感じるかもしれません。でも、ネガティブやポジティブという言葉ではくくれない、厳粛な事実だと思います。現実への徹底した冷静な見方というか。私は家族関係のことなどでとても悩んでいる時に、この言葉に出合いました。その時、驚くと同時に本当にその通りだなと思い、こういうことを一生懸命考えつづけ、大切な教えに出会った人がいるのだなと何だか感動しました。お釈迦様だって、いろんなことに悩んだ。そして、人間誰しもさまざまな苦しみを背負って生きているのだと教えられて、『一切皆苦』『生老病死』という言葉に、むしろエールをもらったような思いになりました。
――悩みぬいた末にたどり着いた言葉、そう考えると聞こえ方も変わりますね。
近藤丸 ただ、これらはどこまでも「自覚」の言葉であり、自分が出合って「そうだな」と思うべきです。誰かほかの人に「一切皆苦だ、だから我慢しろ」という風に使ってはなりません。
あらゆる宗教は、人間が握ったり、何かのために利用したりすると、必ず間違います。そういう意味で、仏教を漫画にするということも危うさ・危なさがあるという点は、心に留めておきたいと思っています。
仏教が生まれてから2500年、人々の喜び、悲しみ、苦悩に寄り添ってきた教えには、現代に生きる人々が抱える悩みを解決に導くヒントがある。漫画『ヤンキーと住職』を読んで、これからの人生の糧になる、大切な言葉や教えを見つけよう。