夫のうっかり発言 5月某日
「病気」という言葉では、受け入れがたいけど「不調」という言葉だったら向き合える。単なる言葉マジックにすぎないけど、私の石頭には最適な治療法の1つだ。
「ただっちさん。まず、分析しましょう。どんなときに皮をめくってしまって、どんなときにしていないのか。よく観察してみてください」
ほう、まずは自己分析ってことなんだね。そういえばさっき先生に、精神的なことが原因で皮めくりをやってるわけじゃないって豪語してしまったけど、それが虚勢だったってことがバレてるみたい。ま、いいか。
「不調を改善する一番の方法は、皮めくりをしてしまう原因を取り除くことです。基本的にはできる限り取り除く工夫をしてください」
「なるほど」
「......ですが現実的に考えて、原因のすべてを取り除くことは不可能ですよね。ですから、その場合は皮膚をむしるという行為を、別の行為に置き換えてみてください。たとえば、皮膚むしりをしてしまうタイミングに、プチプチをつぶすとか、柔らかい毛布を触るとか。自分的に心地よく感じるものに置き換えるんです」
......てっきり精神薬を処方されるのかと思いきや、ただ「日常生活で自分でできる工夫」を教えてくれるだけだった。
今までずっと心の不調は自分のせいで、気合でどうにかすべきことだと思っていたし、ささくれが広がっていくたびに罪悪感で苦しくなった。一生こんな感じで苦しむんだろうなって半ばあきらめていたけど、今日ここに来たことでそんな苦しみから抜け出せたような気がした。病院から出ると、夫が外で待っていた。病院で先生に言われたことや、気持ちが楽になったこと、来て良かったってこと、自宅に向かいながら丁寧に伝えた。すると、夫はこんなことを言ってくれた。
「ただっちが楽しく過ごせるように協力したいから、まずはなんでもオレに相談してね」
━━この言葉が、私の人生を180度変えてしまうだなんて、思ってもいなかった。
原因特定とアイデンティティ・クライシス 5月某日
先生は可能な限り、ストレスの原因を取り除くことが大切だって言ってた。