「家事をがんばらなきゃ」と思えば思うほど、まともにできない怠惰な自分を憎んで爪の皮をめくってしまう――。夫を朝送り出した後、15時まで二度寝してしまうズボラ主婦には、実はそんな悩みがあって...。それを解消すべく、掲げた夢は東大受験!? 『ただの主婦が東大目指してみた』(フォレスト出版)は、著者・ただっちが、自らの挑戦を漫画とテキストとともに描いた完全ノンフィクション。普通の主婦が東大生になるために奮闘する姿を描いた、笑いと涙の東大受験奮闘記をお届けします。
※本記事はただっち 著の書籍『ただの主婦が東大目指してみた』(フォレスト出版)から一部抜粋・編集しました。
「指の皮めくり」は誰のせい? 5月某日
「指の皮をめくってしまう癖があるんですね。これはいつからですか?」
「あ......はい。この癖はたしか、2歳くらいからで。ずっと親から注意されてきたのですが、なかなかやめられなかったんですよね。でもなんていうか、精神的なものではないと自分では分析してるんです。えっとほら、つらいからめくってほっとしてるとか、そういう感じではないんですね。めくるとスカッとするっていうか。あれですよ、プチプチをつぶしてるときの爽快感。私はね、そんなに気にしてないんですよ。だって日常生活に支障をきたしてるわけではないですから。だけど、夫が心配して、受診をすすめてきたので、今ここに来てるのです」
「ええと、ただっちさん。何か悩みとかありますか? たとえば、夫婦関係とか、嫁姑関係とか、お金のこととか」
げっ......私、やっぱなんかあるっぽい? それってレディースクリニックでよくある悩みTOP3なの? 皮肉なことに、私の中の一番の悩みは、今この状況だよ。
「今のところは......特に問題はありません」
「そうですか。ではただっちさん、指を見せてもらってもいいですか?」
「はい......」
何度も何度も皮をめくった指は、自分でもすごく痛々しく見える。特に、親指はギョッとされるくらい酷い。だからいつも、親指をできるだけ人に見せないように隠したり、ひどいときは絆創膏を貼ったり、とにかく見られないように努めた。だけどこの先生は専門家だから、見せてもきっと大丈夫だ。もっとすごいものも見てるはずだから。大丈夫、全部見せて大丈夫。
ドキドキしながら手を差出した。差し出した手は、少し震えていた。
私のボロボロになった手を見て、先生はぎゅっと手を握ってくれた。
「今まで、無理にやめさせられようとしてつらかったでしょ?」
......うん、とても。でも治せなかったのは、自分の甘えだよ。自業自得なんだから、そんなにやさしくされなくていい。
「いろいろ言われてきたでしょうが、そんな簡単にやめられるくらいなら、とっくにやめてますよね。痛い思いをするのは自分なんですから」
ああ、この行為を責められないのは、つらさを理解してくれたのは、生まれてはじめてだ。ぶわぁっと感情の波が押し寄せてきた。涙が出そう。うわぁって思いっきり泣きたい。
だけど、やっぱりまだ診断されたくない。だから泣くのは我慢だ。
「結構慣れっこですけどね、あはは」
やさしくしてくれた先生には申し訳ないけど、そんな感じでヘラヘラした。ヘラヘラしないと絶対泣いてしまうから。
「ただっちさん、皮をめくるのをやめられないのは、あなたのせいではないですよ。それからね、心の不調で悩むことは、決して恥ずかしいことでも、悪いことでもありませんよ。誰にでもありうることなんです」