【ブギウギ】小夜との別れ... 猛反対するヒロインの姿に思い出される「亡き母(水川あさみ)の存在」

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毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「小夜との別れ」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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趣里主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第16週「ワテはワテだす」が放送された。

今週は喜劇王の「エノケン」こと榎本健一をモデルとしたキャラ、「タナケン」こと棚橋健二(生瀬勝久)が登場。物語は、スズ子(趣里)の女優デビューを表に、小夜(富田望生)の自立を裏に、二つの軸で描かれていく。

パフォーマンスが大きな魅力である一方、大雑把に思える箇所も少なからずある本作において、櫻井剛脚本×盆子原剛演出の今週はパフォーマンス頼み・役者頼みでない、細やかな描写の多い物語性の高い週だ。

スズ子のもとに新しい仕事が舞い込む。それは、喜劇王・タナケンとの舞台での共演だ。歌しか歌えないと後ろ向きなスズ子だったが、その話を聞いた愛助(水上恒司)は大はしゃぎ。目を輝かせ、その凄さを熱く語り、「無口で何考えてるかわからへん、けったいなおっさんやったで」と言うスズ子に「そんなん珍しない」と舞台を降りた時の役者の素顔について語るのは、さすがスズ子のオタク&村山興業の息子だ。

さらに、大阪からやって来た秋山(伊原六花)がUSKの近況を伝える。懐かしい人達のその後が描かれたのは、多くの視聴者がずっと知りたかったことだろう。一方、スズ子のタナケンとの共演話を聞いた秋山は「さすが福来さんや~」と感心。タナケンのファンだという秋山からそう言われるうちに、「そやろ?」とまんざらでもない心境になっていくスズ子も、スズ子らしいし、秋山との距離感がわかる良いシーンだった。

しかし、稽古はうまくいかず、タナケンの反応はなく、スズ子が「どうでっしゃろ」と聞いても、真顔で「どうだろうね」と言うだけ。

ある日、スズ子の付き人を辞め、去って行った小夜が米兵と一緒に歩いている姿を見つけたスズ子は、慌てて追いかける。

今は工場に住み込みで働いている、サムは恋人だという小夜に、米兵にとっては一時のことと決めつけ、罵るスズ子。小夜はそのまま去るが、ある日、泣きながらスズ子のもとにやって来て、サムに捨てられたと言う。すると、血相を変えて飛び出したスズ子は、サムを見つけて胸ぐらをつかみ、すごい剣幕で突っかかるが、スズ子を止めに来た小夜にサムは結婚して欲しい、アメリカに一緒に来て欲しいと言う。

「アカン、アカン。急に何言うてんねん。結婚やなんて認められるはずないやろう」と言い、小夜を連れ帰るスズ子。
しかし、「幸せになれるわけない」「心配や!」「とにかく遠い!」と猛反対するスズ子を見て、愛助は出会ったばかりの頃、愛助に敵意をむき出しにした小夜を思い出すと言う。その言葉により、スズ子は、自分が小夜をとられたくないと思っている本心を明かす。情の厚さゆえの執着心、嫉妬心の強さ、業の深さは、かつてスズ子の東京行きに猛反対した母・ツヤ(水川あさみ)を思い出す。血はつながっていないのに、つくづく似た者親子だ。

そして、もう一人、スズ子と裏表の存在になるのが、小夜だった。

ある夜、小夜がサムと訪ねて来て、一緒にアメリカに行くと言う。小夜の魅力を聞かれ、サムが言った「素直です。正直です」は、そのまんまスズ子の魅力でもあるだろう。スズ子が言う「後先考えず」、小夜自身も言う「いつも勢いばっかしで」という小夜の人物評も、スズ子と同じ。

小夜が登場したばかりの頃、スズ子のポジションにとって代わろうとする悪役ではないかと推測した視聴者は多数いた。また、言うことがコロコロ変わる小夜を信じられないと思う人も多かった。しかし、小夜はスズ子に憧れ、スズ子になりたいと思いつつもなれない、もう一人のスズ子であり、「何者でもない自分を自覚し、自分の道を見つけていく」私達視聴者を投影した存在でもあったのだ。

そして、「何者でもない」と言った小夜にスズ子が贈った言葉「小夜ちゃんは小夜ちゃんやろ。どこで何してたかて、小夜ちゃんは小夜ちゃんや。堂々としてたらええねん」を、今度はタナケンとのお芝居で自信が持てずにいるスズ子に、小夜が贈る。

それがきっかけで、スズ子の迷いは晴れ、台本を無視したスズ子流の関西弁で返したところ、それがタナケンに「面白い」と言われる展開に。結果、喜劇+ミュージカル調の舞台は大成功。小夜も自分の幸せを求めてサムと共に去って行く。「がさつ」「うるさくて面倒」「こんなに優しくて頼りになる子は他におらへん」と、まるで自身を表現したかのような言葉をスズ子から贈られながら。

次週は結婚か仕事かの選択を迫られるスズ子のその先が描かれる。スズ子が出す結論はいかに?

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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